うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
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過去と未来と現在、その向き合い方

2020.03.20

第22話 

 

前後際断と一行三昧 

 

「ただいま」

 みゆがそう言って玄関を開けると、うーにゃんが玄関先で待っていた。

「おかえり」

「あれ? わたしが帰ってくるの、なんでわかったの?」

「みゆが帰ってくるときは、だいたいわかるよ」

 ほんとうにそんなことがあるのかな? みゆは腑に落ちなかったが、それよりも、うーにゃんに聞いてもらいたいことがたくさんあったので外出着のまま話し始めた。

 30分くらい聞き役を務めたうーにゃんは、みゆが一息ついた隙に言った。

「みゆはなんでも楽しいんだね。子供の頃と全然変わらないよ」

 聞けば、大学時代の友人とバッタリ顔を合わせてカフェで雑談を交わしたこと、取引先の担当者からアイスクリームをごちそうしてもらったこと、デパートのショーウインドウで見た贔屓のブランドの新作バッグのこと、彼氏から旅行に誘われたこと、ママに教えてもらったアップルパイを作って友だちにあげたけどすごく不評だったことなど、面白おかしく語って聞かせてくれた。

「この前もパパが言ってたよ。みゆはいつも精神状態がフラットだけど、あの娘は落ち込んだことはないのかなって」

「ひどいね、パパ。わたしがすごく鈍感だって思っているんじゃない?」

「ううん、ちがうよ。みゆはいつも楽しそうだから、親としてはありがたいって言ってた。うーもそう思うよ。気分にムラがあったり、わけもなく不機嫌だと、周りの人が困ってしまうもの。うーはそういうのって環境汚染だと思ってる」

 それから、どうしてみゆは心がフラットなのか、楽しいことが多いのか、という話題になった。

「簡単に言えば、前後際断と一行三昧(いちぎょうざんまい)だよね」

 うーにゃんが言った。

「前後際断と一行三昧? またまたうーにゃん先生は難しいことを言っちゃって」

「どっちも同じようなことを言っているんだよ。過去のことや未来のことを思い煩わないで、たった今、取り組んでいることに気持ちを集中するってこと。悲観的に考えてしまう人って、過ぎてしまったことをいつまでもウジウジと考えていたり、これから起こるかもしれないことをああでもないこうでもないと考える習慣がついている。ニンゲンの悩みのほとんどは過去のことと未来のこと。だからこそ、目の前のやるべきことに意識を向け、一心不乱にやれば、よけいな心配ごとから解放されて、いつも風通しのいい心もちでいられる。ね、それってみゆのことでしょ?」

「うーん、たしかに、わたしは目の前のことに没頭してしまうタイプかも。だって、世の中はおもしろいことでいっぱいなんだもの」

「そう思えるのはみゆの特長でもあるよ。そう思えない人は、努めてそういう気持ちになって、それを習慣化すればいいんだけど」

「そういうもんかなあ」

「そういうもんだよ。もうひとつ、どういう人とおつきあいしているかっていうことも大事だよ。類は人を呼ぶって言うじゃない? だから、気持ちが煮詰まってきたら、できるだけ明るい人に会うと流れが変わる。もっとも、みゆは人が集まってくる方だと思うけど」

「そう。だから、交際費がかかるんだよね。先月なんか、結婚式に四回もよばれた。東京と宇都宮と名古屋と大阪だから、交通費もたいへん。すごく楽しい半面、完全にことぶき貧乏だよ。それがなかったら、うーにゃんにモンプチとチーズをたくさん買ってあげられたんだけど」

「ありがとう。その気持だけで嬉しいよ、うーは。大丈夫、パパにねだってうんと買ってもらうから」

「なんだかんだ言って、うーにゃんもお気楽だよね」

 お気楽なふたりはいつまでも喋り、笑い転げた。

 ドアの隙間からふたりの様子を見た人物がいた。パパである。ドアの隙間からぬーっと顔を出し、「なにをねだるんだって?」と言った。

「モンプチとチーズだって」

 みゆが答えた。

「うーにゃん、おまえはネコだってこと忘れてるんじゃないのか? ネコはネズミを獲って食べるって昔から決まってるだろ。ネズミはうまいぞぉー」

「そんな下品なことできないよ。それにネズミがかわいそうじゃない?」

 うーにゃんが答えた。

「ったく、どこまでトンチンカンなヤツらなんだ」と舌打ちしてパパは退散した。

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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