うーにゃん先生の こころのマッサージ

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ココロバエ
魂の伝承

いい欲と悪い欲

2020.02.29

第20話 

 

本来無一物 無一物中無尽蔵 

 

 ふだん新聞を読まないみゆが、珍しく日経新聞を見ている。

「おもしろい記事、あった?」

 うーにゃんは新聞を覗き込みながら訊いた。

「経済の記事ばかりだからあんまり読むところないかも」

 みゆは新聞を横にしたり斜めにしたり裏返したりして、ふ〜んとつぶやく。

「適正な利益って、どのへんなんだろうね」

 うーにゃんの目が輝いた。みゆが大事なことに気づいたと思ったからだ。

「どうしてそう思ったの?」

「だってさ、パパがいつも言っているけど、数字って青天井でしょう。どこまでいってもきりがないよね。いろいろなものを犠牲にして、どこまでいってもきりがないものをどこまで追い求めればいいのかなと思って」

「で、みゆはどう思うの?」

「う〜ん、わかんない」

 みゆは腕組みをして眉間に縦じわを寄せている。うーにゃんはその間、トイレを済ませようと思った。

「おー、うーにゃん。お手洗いか? 用が済んだらちゃんと肉球を洗うんだよ」

 すれちがうとき、パパから声をかけられた。相変わらずレディの気持ちがわかっていない。

「そもそも会社の業績が悪かったら、社長も社員も不幸になるよね。じゃあ、限りなく業績が良くなればいいかというと、そうじゃないと思う。仕事がハード過ぎて社員が鬱になったり、資源をムダづかいしたり……。マイナスの面もたくさんあるよね」

「わたしたちネコから見ると、ニンゲンは優れた生き物だと思う反面、どうしようもないおバカだとも思う。だって、さっきみゆが言った〝ほどほど〟がわからないんだもの。なんのために仕事をするのかという本来の目的を見失って突き進んでしまう。これは本末転倒で、不幸な人を増やすだけだよ。食料自給率が低いと言っていながら、毎日大量の食料を廃棄している。矛盾だよね。すべてが経済成長という美名のもとに正当化されてしまっている。そのかげには、無駄死にした生き物がたくさんいるということを忘れている。いつかしっぺ返しがくると思うな」

「どうすればいいのかな」

「本来無一物だということを、あらためて認識することだよ。だって、どんなに大金持ちになったところで、あの世へ持って行くことはできないんだから。毎日1000万円使っても使い切れないほどたくさん持っている人が、もっともっとお金を欲しがっている。ほんとうは、ニンゲンを含めてあらゆる生き物が裸で生まれてきて、裸で死んでいくのに、そのことを忘れている。ニンゲン以外のあらゆる生き物は〝ほどほど〟をわきまえているのに、頭がいいはずのニンゲンだけがわきまえていないというのはおかしなものだわ」

「うん、わかる。この記事に載っている会社、いま急成長して株価もうなぎ上りだけど、わたしの知り合いがその会社にいて、この前会ったら、うつ病で心療内科に通院しているって。こっちの記事に載っている会社はきょうだいで相続争いをしている。なんかヘンなの」

「ほどほどがわからないからそうなってしまうんだよ。それにね、無一物中無尽蔵という言葉もあるように、よぶんなものを取り払い、残った本質に無限の可能性があるということも肝に銘じるべきだよ」

「それって、たとえば子供の頃の遊びと同じじゃない? わたしは松ぼっくり1個あれば、いろんな遊びを思いついたけど、今の子供はそうじゃないみたいね」

「みゆは昭和の子供みたいだってパパも言ってた」

「パパも、1ヶ月に一枚しかレコードを買えなかった頃はどれにするか考えすぎて頭が痛くなったって。でも、その頃の感動って、たくさんCDを買える今の感動とはちがうって」

 みゆはポテトチップを、うーにゃんはモンプチを食べながら、ずっと話している。みゆにとっては、幸せなひとときだ。ネコの寿命は人間よりはるかに短い。もし、うーにゃんがいなくなったらと思うと、急に悲しくなってきた。

「どうしたの、みゆ。涙を浮かべて」

「なんでもないよ。目にうーにゃんの毛が入っただけ」

 ふたりは笑った。

 たくさんあることと少ししかないこと。どちらがいいのかと、みゆは考えた。

「結局、欲望をどう活かすか、だと思うんだよね。世の中にはいい欲と悪い欲がある。自分にとって適度な欲はどのへんか。そういうことを考えながら毎日を生きていれば、大きくはずれることはないよね」

「そう。そのとおり。みゆが自分で出した結論がこれからのみゆを支えてくれるよ」

「ありがとう、うーにゃん先生」

 そう言って、みゆはうーにゃを強く抱きしめた。

 うーにゃんは窒息しそうだったが、得も言われぬ心地よさを感じていた。

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