うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
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ちからのある言葉
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成果があったときの落とし穴

2020.02.20

第19話 

 

失意泰然 得意淡然

 

「なんかさあ、きょうのうーにゃん、態度大きくない?」

 みゆはママにそっと耳打ちした。

 たしかにそうだ。椅子に浅く座り、ふんぞり返っている。ママはくすんと笑って、みゆの耳元でひそひそと言った。

「あの本ができたからじゃない?」

「ああ、そうかも」

 ふたりは笑った。

 あの本とは、パパの知り合いの経営コンサルタントから依頼され、社員の持ち味を引き出すことをテーマにしたもので、うーにゃんが指南役になっている。タイトルもそのものズバリ、『うーにゃん先生の持ち味コーチング』。イチ太郎という犬に講義をするという形で、うーにゃんが並みはずれた見識を披露している。もともとそのコンサルタントが書いた原稿をうーにゃんがわかりやすく説明したものだから、うーにゃん作とはいえない。しかし、本になったことでうーにゃんの自尊心がくすぐられたようだ。

 パパが帰ってきた。着替えを済ませ、ビールで乾杯。

「むむ? うーにゃん、なんかエラそうだな」

 パパはすかさず指摘した。うーにゃんは相変わらず、ふんぞり返っている。

「そうかにゃ」

「そうかにゃじゃないだろ? ははぁ〜ん、わかったぞ。おまえ、勘ちがいしてるんだな。うーにゃん先生の持ち味コーチング」

「すごく評判がいいみたいだよ、パパ。さっきMさんから電話があって、うーにゃん先生様のおかげさまで社員研修が大盛況だって。お礼にモンプチを2箱送ってくれるって」

 うーにゃんいつになく自信たっぷりの口調でそう言った。

「そんなことを言われたからふんぞり返っているわけか」

「え? べつにふんぞり返っていないよ。うーはいつものうーだよ」

「ちがう。うーにゃんはいつものうーにゃんじゃない。なんなら鏡で見てみなさい」

 そう言って、パパは鏡をうーにゃんの前に持ってきた。

「あ、ほんとだ。心なしかふんぞり返っている」

「心なしかじゃないだろう。どこぞのお大臣様のような感じじゃないか」

「そう言われてみればそうかも」

 パパとうーにゃんのやりとりを聞いていたみゆとママは、こらえきれなくて吹き出した。

「なによ、失礼な」

 うーにゃんは気色ばんだ。

「だっておもしろいんだもん」

 その日の話題は、一変したうーにゃんの態度に終始した。どうして人間もネコも、心の状態が態度や表情に現れるのか。

「どうだ、うーにゃん。ふだんエラそうに不動心がどうの謙虚さがどうのとのたまっているけど、いざ自分が得意な気持ちになるとふんぞり返ってしまうというのは」

「恥ずかしいよ、うーは」

 うーにゃんは肩を落とした。

「ま、サルも木から落ちるし、弘法大師も筆を誤る。ましてネコに小判、ネコのひたい、ネコの手も借りたい、ネコババ、だ」

 うーにゃんはさらに縮こまった。

「ねえパパ、きょうはうーにゃんに禅語でなにか言ってあげてよ」

 いつも諭される側のみゆは、ここぞとばかりに言った。

「そうだな。では、失意泰然 得意淡然という言葉を進ぜよう」

「どういう意味?」

「失意のときはそれとわからないよう、いつもと同じようにしていなさい、得意なときは得意がらないで淡々としていなさい。それくらいの気持ちでいると心もちはちょうどいい具合になるという意味だ」

「落ち込んだときとかうまくいったときとか、それを表に出しちゃいけないの」

「悪いとは言わない。もともと人間は心に大きく左右される動物だから。でもね、自分の感情に振り回されてばかりいるのは感心しない。まして、成果が出たときに舞い上がってしまうようではダメだ。やがて傲慢な態度に変わっていく。もしうーにゃんだって、そうと指摘されなかったら、かなり横柄なネコになっていたかもしれないぞ」

 うーにゃんは、パパの言葉を聞いて、ますます肩身の狭い思いをした。

「でもな、うーにゃんはエラかった。うーにゃんの言うことを聞いていたイチ太郎の表情を見ていたら、パパは鼻高々だったよ」

 パパは取材のシーンを思い出し、そう言った。

 ふと、みゆはうーにゃんを見た。パパに褒められて、うーにゃんはふたたびふんぞり返っているのであった。

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