うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
美し人

おのずと人が集まってくるということ

2020.02.10

第18話 

 

桃李不言 下自成蹊 

 

 久しぶりに家族全員そろい、夕食が始まった。まずはビールで乾杯。そのあと日本酒。基本的に、精米歩合を抑えた純米酒で、1年以上蔵で熟成させたものを選んでいる。すべてパパセレクトである。うーにゃんは、アルコールを分解する能力がないため、ノンアルコールビールを少々たしなむ程度。

「昨日ね、取引先の中村部長が退職するからお別れパーティーに出席したんだ。50人くらいだったけど、今ままでに出席した仕事関係のパーティーでは最高だったよ。中村部長って、みんなから慕われてサイコーに幸せな人だよ」

 ビールをグビグビやりながらみゆが言った。

「お別れパーティー? 辞める人にパーティーを開くのって珍しいわね」

「仕事は厳しかったけど、面倒見がよくてね。わたしもさんざんお世話になった。噂では、おかあさんの介護をするため関西の実家に戻るみたい」

「中江藤樹みたいだな。それにしても、まだ定年という齢じゃないだろう」

「五十歳になったばかりかな。ずっと営業部のトップだったし、社長からも部下からも取引先からも信頼が厚かったから、会社にとってはダメージ大きいと思うよ」

「本人も複雑な思いだろうね」

 ほろ酔い加減になると、BGMに合わせてパパとうーにゃんがハミングする。ポール・マッカートニーの「Silly Love Songs」。ふたりとも、♪I Love Youのところを、気持ちよくハモっている。すかさずママが合いの手を入れる。仕事のことで鬱になりそうな人がたくさんいるというのに、なんとお気楽な家族かとみゆは思った。

「じゃあ、せっかく格好のテキストがあるから、少し問答しようか」

「問答?」

「そう。文字どおり、問いに対して答える。じつは、これが最良の勉強法なんだよ。その中村部長、どうしてみんなからの信頼が厚かったと思う? ハンサムだから? 背が高いから? お金持ちだから?」

「う〜ん、どう見てもハンサムじゃない。西田敏行タイプだし。昭和の典型的なおじさん体型だし、ときどき鼻毛も出ているし。お給料は高かったと思うけど、こづかい制だからあんまりお金も持っていなかっった。とくだんオシャレでもないし。そういう点では人並みだと思う」

「じゃあ、なんで?」

「やっぱり人間性かな。心をこめて仕事に取り組むってこういうことだって教えてもらった。ぜったいに妥協しないし、自分にも他人にも厳しいんだけど、部下や取引先がミスしても、とことん自分が責任を負うっていう感じ。それがわかっているから、中村部長に迷惑をかけたくない一心でみんなの心がひとつになってた。それにね、すごく勉強しているよ。パパがよく言っているリベラルアーツの塊のような人だから、いろんな人と話が合うんだ。それがふしぎと仕事につながっているんだよね。わたしもいろんなことを教えてもらったよ。自然界の法則とか茶の湯のこととか江戸の町人文化のこととかサッカーのフォーメーションのこととか……」

「だから人が集まってきたんだな。うーにゃん、いまの話にピッタリの言葉があるだろ」

「うん。桃李不言 下自成蹊(とうりふげん かじせいけい)でしょう?」

「そう。さすがはリベラルアーツネコ」

「どういう意味?」

「おまえさ、なんでもかんでもすぐに質問しないで、ちょっとは考えてみたらどうだ」

「桃李というのは、桃とすももだよね。それがどうしたの?」

「えいえい! 思考が浅い! 考えるんだ、考えろ。乾いた雑巾を絞るように考えろ」

「桃もすもももなにも言わないけど、その下におのずから……」

「もうちょい」

「成蹊ってなんだろう?」

「ほら、安倍首相が出た大学。成蹊大学はこの言葉からとっているんだよ」

「へぇ〜、そうなんだ」

「道ができるという意味だよ。いいか? 桃もすもももなにも言わないのに、たくさんの人が集まってくるから、その下にはおのずと道ができるという意味だよ」

「あっ、中村部長みたいだ」

「だろう? 人間的な魅力がある人は、ことさら自分の能力を誇らない。でも、多くの人に慕われているから人が集まってくる。これが要点だよ、みゆ。こうなるためには、ハウツーもんの勉強じゃだめだ。薄っぺらでさかしらな知識をいくら詰め込んでも、その人の魅力にはならない。自分をぶ厚くしなきゃ」

「どうやって?」

「それを考えるのがおもしろいんだよ。答えはひとつじゃない。人の数だけある。だから、おもしろい。もし、中村部長がこっそり『部下を伸ばす50の言葉』なんていう本を読んで、それを実践したところで、部下の心を打ったとは思えないだろう?」

「パパ、ひとつ訊いていい?」

「なんだ?」

「パパは以前、なんでもかんでも仲良くなればいいわけではなく、選別も必要だって言ったでしょう? 桃やすももは選別しているの?」

「いい質問だ。ようやくいい質問ができるようになったな」

 そう言って、パパはみゆに酌した。

「選別というのは、好き嫌いで選り分けるということではない。自分を確立して旗幟鮮明にするということ。早い話、振り込め詐欺の常習犯みたいな奴らがたくさん集まってきたとしたらマズイだろ? 数が多ければいいという話ではないというのはそういう意味だ。自分に合った人が自然に集まってくる。それが大切だ。そのために、一人ひとりへの応対、一期一会を大切にするんだよ」

「オッケー、パパ」

「ほんとうにわかってんのか、こいつ」

 そう言って、パパはみゆの額をデコピンした。指で弾いた音があまりにも鮮明だったため、ママとうーにゃんが大笑いした。

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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