うーにゃん先生の こころのマッサージ
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美し人
ココロバエ
ちからのある言葉
ちからのある言葉

〝みんな同じ〟が平等ではない

2020.01.30

第17話 

 

春色無高下 花枝自短長 

 

 ファッション雑誌をめくりながら、みゆがつぶやいた。

「いいなあ、こんなに肌がきれいで。脚も長いし」

「この人、八頭身じゃない? いいなあ……」

「こんなにきれいな人に生まれたら、人生変わるんだろうね」

 みゆの部屋の片隅で昼寝を決め込んでいたうーにゃんは、みゆのつぶやきを聞きながら、ときどき目を開ける。ちがう、そうじゃないよ、と声に出そうと思ったが、言葉を飲み込んだ。

 ついに、こらえきれなくなって言葉を発したのは、みゆがこうつぶやいたあとだった。

「だいたい、不公平なんだよね」

 不公平?

 うーにゃんから見れば、みゆはなに不自由ない暮らしをしている。まるでおとぎ話の世界だ。

「ねえ、みゆ」

 意を決して、うーにゃんは、強い口調で諌めた。

「みゆは勘ちがいしていると思うよ」

「なんのこと?」

 みゆは、むっとして言い返した。

「だって、そうじゃない? モデルと自分を比べてどうするの? 人は人だよ。その人にだって悩みはあるかもしれないよ」

「ないよ、こういう人には」

「どうしてそんなふうに言い切れるの。それに、みゆには関係ないことでしょう。みゆは自分が恵まれていると思っていないの? 感謝することを忘れたらバチがあたるよ」

「バチってなに? 変なこと言うね、ネコのくせに」

 きょうのみゆは、やけに機嫌が悪い。そんなときに口論しても仕方がないと思いつつも、いい機会だから言うべきことを言おうと思った。

「考えてごらん。ニンゲンに生まれてきただけですごくラッキーだよ。世の中にはたくさんの生き物がいるけど、そのほとんどはただ本能に従って生きているだけ。しかも、生まれてから死ぬまで、生存競争に明け暮れている。でも、みゆには楽しみがいっぱい」

「えらそうなこと言っているけど、うーにゃんだって三食昼寝付きじゃない。そのへんの野良ネコと比べたら贅沢ざんまいだよ」

「……」

 うーにゃんは痛いところを突かれて一瞬黙ってしまったが、ふたたび気を取り直して言った。

「同じニンゲンでも、アフリカとかの食べ物がない国に生まれたと想像してごらんよ」

「そんな遠い国のことはわからない」

「お隣の中国だって、たしかに経済的な成長はすごいけど、ほんとうの自由はないよ。政権を批判することもできないんだから。中国は国防費よりも治安維持費の方が多いって知ってた?」

「だからなんなの?」

「それだけ国に監視されているってこと。その点、日本を見てごらん。捏造してまで日本を貶めている新聞だって許されるんだから。こういう国が当たり前と思ったらいけないよ」

「あらあら、うーにゃん先生、こんどは国家についての説教ですか」

 みゆはますますへそを曲げた。

 うーにゃんはしばし考えて、アプローチを変えようと思った。

「みゆを非難しているんじゃないからね。うーはみゆのことが大好きだから、いい人生をおくってほしいって思っているだけ」

 うーにゃんは大きく深呼吸し、努めて穏やかな口調で、噛みしめるように言った。

 みゆの肩から力が抜けていくのがわかった。

「同じ結果になることが平等だと言う人がいるけど、それはちょっとちがうと思う。だって、自然界を見たらわかるけど、同じ種類の生き物だって、それぞれだよ。大きいのもいれば小さいのもいる。強いのもいれば弱いのもいる。弱いものは生き残れない。それが自然界の大原則だからね」

「じゃあ、平等ってなによ?」

「春色無高下 花枝自短長」(しゅんしょくにこうげなし かしおのずからたんちょうあり)

「また、禅語?」

「そう。だって、本質を短い言葉で表現しているから」

「どういう意味?」

「春の日差しは公平に当たるけど、花や枝は長いものもあれば短いものもあるっていうこと。つまり、機会は平等でも、結果が同じになるとは限らないということ。みゆは一人っ子だからわからないと思うけど、同じ両親のもとに生まれたきょうだいだって、体格や性格がちがうことが多いよ。でも、それが当たり前なの。みんなちがって当たり前。だから、むやみに人を羨んでもしかたがない」

「たしかに、うーにゃんを見ているとそうなのかも。だって、うーにゃん、どこにでもいるキジトラの雑種だけど、幸せそうだもの」

 みゆは、微笑みながらそう言った。

「う〜ん、そう言われると複雑な心境だけど、言っていることはまちがっていない気がする」

「そうだよ、うーにゃんはどこにでもいるキジトラの雑種。でも、幸せだから、血統書付きのネコと比べる必要がない」

(……もうこれくらいにしてほしんだけど)

 

 

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