うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
偉大な日本人列伝

自分の持ち味を大切にする

2020.01.20

第16話 

 

桃花紅李花白 

 

 ドアの隙間から、みゆが声を押し殺して泣いているのが聞こえた。うーにゃんは体をくねらせてすり抜け、そっと近づいて言った。

「どうしたの?」

 みゆはうーにゃんに気づかない。

 うーにゃんはパパとママがいるリビングに行って、「みゆが泣いているよ」と言った。

「財布でも落としたんだろう」

「あら、どうしたのかしら。珍しいわね。うーにゃん、落ち着いたら、理由を聞いてみて」

 パパもママもあまり深刻に受け取っていない。みゆに悩みはないと思い込んでいるようだ。

 うーにゃんは一時間くらい、みゆの傍らでじっと見守っていた。ネコだから、待つことは苦ではない。一日中待っていても退屈しない。

 落ち着いたころを見はからって尋ねた。

「どうしたの?」

「え? あ、うーにゃん」

 みゆはようやくうーにゃんに気づき、ぎゅっと抱きすくめた。ゴムのように柔らかな体は、ぐにゃっとつぶれそうになった。

 みゆは、問わず語りに訥々と言った。ずっと好きな人がいて、告白したのだが、想いが叶わなかったのだ。

「その人、好きな人がいるんだって。それがね、わたしの友だちなの」

 みゆはまた顔を歪め、泣きそうになった。

「彼女の方が可愛いからかも。目もぱっちり大きくてハーフみたいだし」

 みゆが彼女と自分を比べてため息をついたのが、うーにゃんにもわかった。

「みゆだって素敵だよ。もし、うーがニンゲンの男だったら、ぜったいみゆが好きになると思う」

「うーにゃんに好かれても……」

「だって、みゆはだれとでも仲良くやれるし、聞き上手だし、仕事も一生懸命やるし、オシャレに気を使うし、気持ちが安定しているし。みゆに告白されたのにほかの人がいいなんていう男の人とははじめから縁がなかったんだよ。みゆの良さがわかって、みゆを幸せにしてくれる人がかならず現れるよ」

「そうかなあ。なんか、自信なくなっちゃった」

 みゆは、うなだれた。

「桃花紅李花白(とうかはくれないりかはしろ)という言葉があるよ、みゆ」

「また禅の言葉でしょう?」

「うん、でも、心の支えになることもあるでしょう?」

「まあ、ときにはね……」

 みゆはこれまでにうーにゃんから禅語を教えてもらって、気持ちが楽になったことが何度もあったことを思い出した。

「どういう意味?」

「桃の花は赤くて、すももの花は白いってことだよ」

「なにそれ、当たり前じゃない」

「そうとってしまったら、それで話は終わってしまうよ。桃もすももも、それぞれに自分の色をもっていて、それで調和しているということ。たとえば、すももが桃の色に憧れてピンク色になったらヘンでしょう?」

「まあね、言いたいことはわかる」

「桃はすももになれないし、すももも桃になれない。みゆもその彼女にはなれない。彼女だってみゆになれない。だから、比べる必要なんてひとつもないの。うーだって、以前はペルシャ猫とかシャム猫とか、貴族みたいなネコに憧れたことがあるけど、今はキジトラで良かったと思ってる。だって、みゆもパパもママもこの柄のネコが好きだって言ってくれるし。それに、キジトラは世界中にいるんだよ。体は丈夫だし、頭もいいし」

「それって自慢?」

「てへ」

 うーにゃんは照れながら足を舐めた。

「それにね、桃もすももも、春になったら気持ちよさそうに花を咲かせるじゃない。自分の色で。それがとても素敵なことなんだよ。だから、みゆも時期がくれば自然と花を咲かせるよ」

「それはいつ?」

「人それぞれだから、それはだれにもわからない。でも、必ずくる。だから、ずっと自分の色を大事にすればいいんだよ」

「自分の色を大事にするって?」

「さっき、うーが言ったじゃない、みゆのいいところ。もっと言ってあげようか?」

「うん、言って言って」

 うーにゃんは思いつく限り、みゆの長所を並べた。ひととおり言い終えると、また催促され、同じことを繰り返す。やがてみゆの表情が明るくなった。

 ドアの隙間からふたりの様子を眺めていたパパは、ママにこうつぶやいた。

「オレのいいところってなんだ?」

 ママは困った顔をしながら「考えておくね」と言った。

「なんだよ、考えないとわからないのか。じゃあ、オレが教えてあげるから、耳の穴よ〜くかっぽじって聞くんだぞ」

「顔がショーン・コネリーに似てる、脚がウィリアム王子のように長い、人の言うことを素直に聞く、悪い奴らをボコボコに叩きのめす腕力、泣く子も黙るチャーミングな性格、カラスは白と言いくるめる話術……」

 よくもまあ思いつくわと感心するほどあることないことを並べたてる。ついに我慢できなくなってママは笑い始めた。

「ママ、どうしたの?」

 みゆとうーにゃんが同時に声を発した。

「だって、だって、だって……」

 お腹を押さえて笑い転げるママを見て、パパはチェッと舌打ちしながら去って行った。

 みゆとうーにゃんはきつねにつままれたような表情をしたあと、理由もわからずにママといっしょに笑い転げた。笑いは伝染するのである。

 

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