うーにゃん先生の こころのマッサージ
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美し人
ココロバエ
ちからのある言葉
ちからのある言葉

心に一点でも曇りあらば

2019.12.09

第12話 

一翳在眼 空華乱墜 

「だからって、傷口に塩をすり込むようなことは言わなくてもいいんじゃない?」

 隣の部屋から声が聞こえてきた。珍しくママが強い口調でパパをいさめている。

「食塩じゃなく、本物の塩をすり込めばいいじゃないか」

「そういう話じゃないでしょ!」

 ママの一喝で静まり返った。

 苦り切った表情でパパが部屋から出てきた。ドアの隙間からみゆとうーにゃんがベッドの上でゴロゴロしているのを見て、チェッと舌打ちしながら通り過ぎたが、すぐに戻って来て、こう言った。

「ニュースで振り込め詐欺のことを報道していたから、騙されるやつがバカだって言ったんだけど、ママは人道主義的・理想主義的なことしか言わないんだ。うーにゃんはどう思う?」

「……いきなりそう訊かれても」

「そんな手口は10年以上前からあるわけだろ。これだけ情報が氾濫しているのにいまだに騙されるのは、騙される方が悪いんだ」

「そう言われてみればそうだけど、コツコツ貯めたお金を取られた人の気持ちも考えると……」

「それにだ、動機が不純だっての。孫や息子の不祥事のあと始末をつけるとか、お金が戻ってくるとか。そんな話ばっかりだろ」

「まあ……」

「騙される人が後を絶たないから、騙そうとするやつも減らない。みんながもっと用心すれば、悪人だってあきらめるだろうよ」

「ちがった悪事を働くかもしれないよ」と、うーにゃんはつぶやいた。

「安易に信じすぎるのはけっしていいじゃない。猜疑心のかたまりっていうのもどうかと思うけど、少しは大阪のおばちゃんを見習ったらどうだ。『オレだけど』と言うと『どこのオレやねん』って突っ込むっていうんだから。さすが、上下ヒョウ柄のパワーだ」

「大阪のおばちゃんが全員ヒョウ柄というわけじゃないと思うけど」

「それは言えてる。上下トラ柄もいるからな」

 うーにゃんとみゆはプッと吹き出した。

「うーにゃん、振り込め詐欺に遭わないようにするために、なんか効果的な戒めの言葉ってないの?」とみゆが言った。

「そうだね……」

 うーにゃんは腕を組んで考え始めた。手首から先が「へ」の字に曲がった。どんなに自制心を働かせても放っておけない仕草だ。思わずみゆは肉球をプニュプニュと押した。

「一翳在眼 空華乱墜(いちえいまなこにあれば くうげらんついす)はどうかな? この言葉を頭の片隅に入れておくの」

「おー、それ、聞いたことがあるぞ」

「わたしは聞いたことがない」とみゆ。

「目の中にほんのちょっとのゴミが入っただけで痛くなって、目を瞑るといろんな色の光が乱舞して見えなくなるのと同じように、心のなかにわずかでもよこしまな気持ちがあると、正しいことと悪いことの区別もつかなくなり、しまいには悪い誘惑に負けてしまう。企業の不祥事のほとんどはそういうことだよね」

「さすがはうーにゃん先生、いいこと言うじゃないか。そもそも会社のお金を使い込んだらクビになるのが当たり前。そういうことを繰り返さないためにも、人生の先輩は本気で叱らなきゃいけない。身に覚えのないお金が還付されると聞いて騙されてしまうのは、心にやましいものがあるからだろ。結局、自業自得なんだよ。だから、みゆもそういうことを肝に銘じて仕事をしなさい」

「えー? なんでこっちにくるわけ?」

「おまえは金が好きだから心配して言っているんだ。金にはもらっていいものとそうじゃないものがある。そこをわきまえないと、あとでとんだしっぺ返しを食うことになる」

「もらってはいけないお金ってなに?」

「自分がやったことの報酬として、妥当だと思えないものだよ。その差が大きければ大きいほど、あとになって災いが降りかかってくる。金は仕事の報酬で、あとからついてくるものだ。はじめに金ありきじゃない。だから、まちがっても自分の都合だけの売上計画書を作ってはいけない。数字ありきの仕事をするようになってしまうし、ほんとうに大切なもの、仕事の本質が見えなくなってしまう。ひとつひとつの仕事をていねいに、誠実にやり遂げるんだ。そうすれば、その成果が独り歩きしておまえをPRしてくれる。つまり、仕事の成果こそが営業マンだ。そこんところを忘れるんじゃないぞ」

 振り込め詐欺の話から、最後はみゆへの説教になったが、みゆは素直に聞いている。

 パパはふと、うーにゃんを見て、つぶやいた。

「ったくネコは気楽なもんだよ。1円も持ってないくせにお大臣みたいな暮らしぶりだ」

 感度のいいうーにゃんの耳には一言ももれることなく聞こえたが、うーにゃんは「猫耳東風」を決め込んだ。

「つごうの悪いときは聞こえていないフリをするしな」
 それでもうーにゃんはスルーしている。

「でも、おまえはいいやつだよ。そもそもヘンな打算がないし、人を陥れることもしない。金銭欲にまみれていないし、虚栄心もない。りっぱなネコだよ」

 急にうーにゃんの表情が輝いた。

「パパ、ありがとう」

「ほーら、ひっかかった。やっぱり聞こえてたんだろう?」
 そう言ってパパは、あるかないかわからないくらいのうーにゃんのひたいをデコピンした。

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