うーにゃん先生の こころのマッサージ
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続けられることは才能

2019.09.29

第5話 

曹源一滴水 

「ねえねえねえ、うーにゃん聞いて」

 帰宅するや、みゆはうーにゃんが眠っている部屋に飛び込んできた。安眠をむさぼっていたうーにゃんはムッとするものの、大人の対応をする。

「またお金でも拾ったの?」

 一週間前、みゆは百円玉を拾い、眠りにつくまで上機嫌だった。

「失礼だようーにゃん、百円なんて子供の小遣いじゃない」

 あの日のみゆの笑顔を思い出しつつ、うーにゃんはほくそえんだ。

「で、なにがあったの?」

「それがね、びっくりなの。中学時代の同級生が院展で賞をもらったんだよ」

「日本美術院が毎年開催している公募展だね。みゆと同じ歳で院展の賞をもらったというのはたしかに前途有望だよ。すごい同級生がいたんだね」

 絵が好きなうーにゃんは、もともと大きい目をさらに大きくして驚いている。ちなみに、うーにゃんが好きな絵は、雪舟の水墨画や達磨大師の禅画など、色彩があまりないものである。

「でもさあ、その子って、こう言ってはなんだけど、成績はいつもビリの方だったんだよ。いつもわたしと争っていたんだから」

「あ、つまりビリ争いした同志ってわけね」

 うーにゃんは笑うのをこらえながらそう言った。

「それなのに、すご過ぎない?」

 みゆの言うには、彼は小学生の頃から絵が大好きで、授業中もずっとノートに絵を描いていたため先生や同級生から白い目で見られ、卒業するまで劣等生の烙印を押されていたという。

「ほんとうはね」

 みゆがうーにゃんの耳元でひそひそと話し始める。

「その子が好きだったんだ。だって、自分の世界があって、ずっと好きなことに没頭しているんだもの。みんなからバカにされてもまったく気にしていなかった。大きくなったら画家になれたらいいねって心のなかで応援していた。だからニュース見たときはうれしくて……」

 みゆは目を潤ませている。

「曹源の一滴水」

 うーにゃんはいきなりネコ座りし、居ずまいを正して言った。

「え? うーにゃん、なにか言った?」

「ソウゲンノイッテキスイって言ったの。その子はまさしくそれを実行したの」

「なにそれ?」

「どんなに大きな川も、はじまりは一滴の水ってこと。ずっと前、パパやママと利根川の源流を見に行ったことがあったじゃない? あんなチョロチョロとした流れがやがて利根川になるなんて想像できなかったよね。それと同じ。彼は学生時代、チョロチョロとした小さな流れに過ぎなかった。でも、コツコツと続けていたから大きな川になった。たぶん、彼はもっともっと大きな川を目指して頑張ると思うよ」

「やっぱり、好きなことを続けるって、かっこいいよね」

「困難はたくさんあると思うけど、自分が好きで選んだ道ならやり続けられる。世の中には選択肢が無数にあるから、壁にぶつかると、すぐほかのほうへ目が向いてしまいがちになるけど、ずっと脇目も振らず、好きな道を貫けるって、みゆが言うとおり、かっこいいよね。松下幸之助さんも『成功の要諦は、成功するまでやり続けること』って言ったけど、ひとつのことをやり続けるって、それだけで才能なんだよ」

「わかってて、なかなかできないもん」

「こんど、その子に連絡をして、ひさしぶりに会ってお祝いしたら? みゆもいい影響を受けると思うよ」

「うん」

 

 みゆは腕組みをして、虚空を見つめている。

「曹源の一滴水か……。いい言葉だね。わたしはこの先もずっとチョロチョロなのかなあ」

「それはわからない。でも、自分を信じてやり続けたら、必ずいい結果になると思うよ。パパも言っているでしょ? 『すぐに得たものは、すぐに失われる』って。結果が出るまでにはそれなりの時間がかかるようにできている。それなのに手っ取り早く近道を行こうとするから足をすくわれる。いまは、近道がたくさんある世の中だから」

「うん、ありがとう、うーにゃん先生」

 そう言ってみゆはポケットから百円玉を取りだし、ためつすがめつ眺めている。得も言われぬ表情で。

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