うーにゃん先生の こころのマッサージ
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無数の出来事がつながっている

2019.09.09

第3話 

樹揺鳥散 魚驚水渾 

 夜おそく、みゆがほろ酔い気分で帰ってくると、リビングでなにやらガサガサと音がする。

 うーにゃんが探しものをしている。長年、人間といっしょに暮らしているうーにゃんだが、夜型の生活習慣は変わらない。

「うーにゃん、なにしてるの?」

「あ、おかえり、みゆ。このあたりにピンポン球があったと思うんだけど……」

「まだそんな遊びに夢中なの?」

「暗いところで転がすのって、けっこうおもしろいんだよ。こんど、いっしょにやろうよ」

「はぁ〜、ったくもう」

 みゆは大きなためいきをもらした。

「ネコは気楽でいいなあ。こんど生まれ変わったら、ネコになりたいよもう……」

 ピンポン球を見つけたうーにゃんは、いきなりダッシュを始めた。手でピンポン球を転がしながら、部屋のなかを縦横無尽に駆けめぐる。アイスホッケーの選手のように、なめらかで力強い動きだ。急ブレーキをかけるたびに、床に爪痕ができる。またパパに叱られる、とみゆは言ったが、うーにゃんは馬耳東風ならぬ、〝ネコ耳東風〟だ。

 ひとしきりピンポン球転がしを楽しんだあと、うーにゃんは仰向けに寝転がり、息を整えている。

「ねえ、うーにゃん先生、聞いてよ」

「……セ・ン・セ・イ? またなにか相談ごと?」

「相談ごとってほどでもないんだけどさぁ……。ひさしぶりに高校時代の同級生と会って飲んだんだけど、なにかがちがうっていうか……」

「なにが、どうちがうの?」

「話がかみ合わないんだよね。人のうわさ話や悪口ばっかりで、ぜんぜんおもしろくない。いちおう相づちはうったけど、どっと疲れちゃった」

「なるほどね。高校時代はそんなふうに思わなかったの?」

「うん、あの頃はなにを話していたのかな」

「ふたりの興味が噛み合わなくなったんだね。で、いっしょに飲んでいて楽しい友だちもいるんでしょう?」

「もちろん、いるよ」

 うーにゃんはみゆの前にネコ座りして、念仏を唱えるかのようにつぶやいた。

「樹揺れて鳥散じ、魚驚きて水渾(にご)る」

「また難しそうなこと言っちゃって。どうしてそんな言葉を知ってるわけ?」

「うーは禅の言葉が大好きなの」

「ふ〜ん。で、その樹がなんたらかんたらって、どういう意味なのよ」

「樹の枝が風で揺れて枝にとまっていた鳥が飛び立って、魚がなにかに驚いて急に動き出したから砂で水がにごったということ」

「あたりまえじゃない。だからなに?」

「そう決めつけてしまうと大切なことが見えてこないよ。なにごとも無数の出来事がつながって、いまの結果があるっていうこと。樹が揺れる前にはいろんな原因があるし、鳥が飛び立っていったあと、なにかが起きる。この世の中は、そういう小さな原因と結果が無数につながっているの。樹のタネがそこに落ちるまでのプロセスや、どんな角度で日が当たったかとか、なぜ鳥がその枝を選んだかとか、数え切れないほどの出来事がつながってひとつの結果になっている。うーとみゆがここにいるのもそう。わけもなく、一瞬のうちにこうなっているわけじゃないよ」

「まあね、そう言われてみればそうだと思うけど、それとひさしぶりに会った友だちのことがどうつながってくるの?」

「ニンゲンにはふたつの住所がある。ひとつはこの住まいの住所。もうひとつは、どういうニンゲン関係のなかにいるかという住所。悪い人って悪い人同士でつるんでいるじゃない? 振り込め詐欺のグループは同じような人ばかり集まっている。それがその人たちの住所なの。前向きな人は同じような人がまわりにたくさんいるでしょう? 自分で選んだひとつひとつのことがいまのニンゲン関係の住所になっているってことなの」

「だから?」

「だから、会っていてヘンだなって思ったら、離れてもいいんだよ。だれとでも仲良くというのは理想的だけど、不自然だよ。いまはSNSとかで必要以上にたくさんの友だちとつながろうとするけど、それが心を乱す原因になることもある。ほんとうに心が通じる人が少しいれば、それでいい。それがニンゲン関係の住所を決めるということなの」

「会っていてつまらないと思ったら、無理しておつきあいしなくてもいいということ?」

「そういうこと。でも、距離のおき方は大切だよ。波風立たないように、それとなく距離をおく。それが大人のニンゲンとして大切なこと。むしろ、それができるかどうかがとっても重要だと思うよ」

「じゃあ、パパみたいに、言いたいことをズケズケ言うのはどおなの?」

「まあ、パパは特殊だからね。それで通用するキャラでもあるし。そうじゃないのに、無用なトラブルを起こす必要もないでしょう?」

「へぇ〜。なんか、うーにゃんって、いろんなことがわかってるんだね。ところでうーにゃんはどういう住所にいるの?」

「うーは飼い猫だから、ほかのネコとはおつきあいがないからね。みゆに拾ってもらう前のことはあんまり覚えていないし」

「じゃあ、住所不定ってわけ?」

 そう言って、みゆは鼻で笑った。

「まあ、そうも言えるけどね」

 うーにゃんは頭を掻きながら、照れ笑いした。

「ネコの友だちがいなくて、寂しくないの?」

「全然寂しくないよ。うーにはみゆがいるし、パパもママもいる。それでじゅうぶんだよ」

「うーにゃん……」

 感極まったみゆはうーにゃんに抱きつき、うーにゃんの豊満な体に頬ずりするのであった。

「こんど、ピンポン球転がし、いっしょにやろうね」

 このあと、みゆがピンポン球転がしにハマることになるのは、無数の出来事がつながったからでもある。

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