日々是食日 体と心が喜ぶ食の話

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ココロバエ
禅ねこうーにゃんのちょっとした助言

悪いのはだれ?

2021.06.02

「ムクドリの巣を、あのカラスが狙ってるんですよ。親鳥がギャーギャー威嚇してるでしょ? あの一羽だけがしつこくてね」
 突然、後ろから声がした。振り返ると、犬の散歩中だったおじさんが立ち止まって、わたしの視線の先を見上げていた。
 郵便物を届けて戻ってきたわたしは、自宅マンションの屋上で鳥が騒いでいるのが気になって、しばらくじっと様子を見ていたのだ。
「あぁ、あれはムクドリの親ですか。どうりで騒がしいはずですね」
 カラスとムクドリは距離を推しはかりながら、互いに近づいたり離れたりを繰り返している。というより、カラスが近寄ると、ムクドリは狂ったように羽をバタつかせ、喉を震わせながら騒ぎ立ててカラスを追い払う。

 

「このマンションは、鳥の巣があちこちにあるんですよ。スズメもね、よく狙われてます。かわいそうに」
「そうですか…」

 わが家の古いマンションは鳥たちの格好の寝ぐらだったようで、朝夕と鳥たちがひっきりなしにマンション周辺を飛び回っていた理由が、ようやくわかった。
 近くに野鳥たちの集まる観察舎と野鳥病院があるため、この近辺は野鳥が多い。夜になると駅周辺もネオンに引き寄せられたムクドリたちが、恐ろしいほど電線にぎゅう詰めになって止まっている。その光景はまるで、ヒッチコックの映画の「鳥」を思わせ、背筋が寒くなるほどだ。
 わが家でも最近とくに明け方が騒がしく、ベランダの目の前をカラスやらスズメやらが何羽も混じり合って行ったり来たりしている。もっと上空では、野鳥の森から飛び立った鳥たちが、群れをなして北西の方に飛んでいくのもたびたび目にする。
 それにしても、朝の鳥たちの騒動は巣にいる雛鳥を巡っての争いだったとは、まったく思いもよらなかった。
 
 そういえば子供のころ、家に迷い込んだスズメが、ガラス窓に激突して失神していたのを介抱したことがある。手のひらの上でじっとしているスズメはあまりにも小さくて、そのまま死んでしまうんじゃないかと思った。でも、ぴくぴく動く体はあたたかく、ちゃんと生きていることを伝えてきた。
 そっとタオルで包み、箱の中に入れ、スズメが目を覚ますのを待った。スズメはすぐに目を覚ました。目を覚ましてもぼーっとしているのか、自分がいったいどこにいるのかと考えているのか、じっとタオルにうずくまったままだった。

 スプーンで水を与え、ごはんつぶをあげた。しばらくすると我にかえり、スズメはバタバタと羽を動かしはじめた。そして、空に返したのだ。
 
 カラスとムクドリのやりとりを見て、ふとそのことを思い出した。
「カラスが悪いわけじゃないんですけどね」
 おじさんは、そう言い残して犬と一緒に帰っていった。
 そしてカラスも諦めて去っていった。その後を追いかけるように、ムクドリも飛び立った。
 わたしひとりだけが置いていかれた。
 
 ―― カラスは悪くない。
 そうだ。
 カラスは悪くない。ムクドリだって悪くない。スズメはまったく悪くない。
 だとしたら、悪いのは誰なんだろう。
 
 駅前のネオンに惹かれて群がるムクドリ。マンションの屋上に巣をつくるムクドリ。その巣を狙うカラス。家に迷い込んできて窓に激突して失神したスズメ。
 なんだか彼らに申し訳なくなってきて、わたしはそそくさと自宅に戻った。

 それから数時間後に、わたしは鶏肉のピカタを食べていた。

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