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稲穂の国のふしぎなおむすび

2019.11.30

 私事になるが、最近、物語を担当させていただいた某幼稚園の絵本が刊行された。『おばあさんのふしぎなおむすび』と題したこの物語は、おばあさんとねずみのチュータがおむすびをめぐって繰り広げる冒険ファンタジーだ。
 日本の国柄である「和」の文化を子供たちに伝えたいという理事長の意向をうかがい、それならと「米」をテーマにストーリーを練った。
『古事記』の時代から伝わる日本の精神を物語に込めてほしいと依頼があったのは、昨年3月のことだった。
 
 稲穂の国である日本を象徴する「米」を、さてどう料理しようかと悩んだすえ、思いついたのが「おむすび」だった。いちばんシンプルに米を堪能できるのは「おむすび」だろうと思ったからだ。しかも、「おにぎり」ではなく「おむすび」である。
 つなぐという意味の「結ぶ」と、万物を生み出す「産霊(むすひ)」を掛け合わせた「おむすび」は、生命そのもの。すべての命は「むすび」から生まれる。

 太陽の光と大地のぬくもり、風や雨、虫などの生き物や多くの人の手によってできた米を右手と左手で、やさしくひとつにむすぶ。
 右の「ミ」は物質の身。左の「ヒ」は霊的なもの。そのふたつの手で包み込んでうまれた光のかたまりが「おむすび」である。
 
 さて、そのおむすび。誰に結んでもらおうかと思案した。『古事記』と言えば、昔話。昔話と言えば、おじいさんとおばあさん。天照大神は女神だから、おばあさんに決まり。
 おばあさんがおむすびを結ぶだけでは、話にならない。ここはひとつ、人間以外の生き物に登場してもらおう。

 ―― 何がいい? ……そうだ!ねずみ!
 お米と言えば、昔から「ねずみ」と決まっている。昔話にもねずみが登場する『おむすびころりん』があるし、ねずみは大黒様の使いである。これなら『古事記』にもつながる。
「おばあさん」と「おむすび」と「ねずみ」。なんとなく、頭の中で物語が動きはじめた。おばあさんがおむすびを結び、ねずみが食べる。まさかそのおむすびが、不思議な力をもっているとも知らず。
 
 タイミングよく来年は子年である。まったく思惑はなかったけれど、出来上がってみれば、新しい元号に変わり、大嘗祭が執り行われたころと時を同じくして刊行されたことも、なにやらふしぎな縁を感じないこともない。
 
 それにしても、日本という国はふしぎな国だとつくづく思う。新天皇が神々に新穀を供え、国家国民の安泰と五穀豊穣を感謝し祈る神聖な儀式が古より伝わり、今に残っているということが、まず驚きである。それ以上に、神話の時代から稲作が受け継がれ、神々が作っていたものと同じものを、われわれ人間も未だ食べていることが信じられない。
 神々が作ったのだから、ひとつぶの米に7人の神様が宿っているというのも、きっとそうなんだろう。
 ひとつぶの種もみからは1本の苗が、さらにその苗の茎が分かれて10本ほどの稲穂になり、1本の稲穂からは60〜100粒の米ができることを考えれば、ひとつぶの種もみからはおよそ600〜1000粒もの米がとれる計算になる。だとすると、一俵の米には、いったいどれだけの神様がおられることか。茶碗一杯分は、だいたい3000粒ほどの米が詰まっているそうだから、なんともありがたいものを毎日毎日いただいている。こうべを垂れた稲穂が浮かび、同じように頭が下がる。
 
―― 味つ物 百の木草も 天照 日の大神の 恵み得てこそ
(たなつもの もものきぐさも あまてらす ひのおおかみの めぐみえてこそ)
 
 本居宣長が歌った食物への感謝の歌である。
「こうして食事をいただけるのも、すべて太陽の神様のお恵みのおかげです。心から感謝いたします」
 と、宣長は自然の神々へ感謝の意を表した。食前に言う「いただきます」の元になった歌だ。せっかくだから、物語の中にも入れてみた。おばあさんが、この歌を歌いながらおむすびを結ぶ。できあがったおむすびは、ぴかぴかに光り輝いている。こんなおむすびが美味しくないはずがない。
 
「明日は、おむすび、いるの?」
 休日にバイトがあるとき、息子はお昼代を浮かせるためにおむすびを持参する。
「いる。3つ、お願い」
「了解。具はなんでもいい?」
「いいよ。あんまり大きくしないでね」
 
 おむすびだけではお腹が空くだろうと思うから、いつもソフトボールほど大きなおむすびを作ってしまう。しかも、結ぶのではなく、ぎゅぎゅっと硬い握り飯を。
 しまった!

 これでは完全に神様や人の思いを握りつぶしてしまっているじゃないか!

Profile

神谷 真理子

神谷 真理子

もの書き。兵庫県生まれ。

詩、童話創作、聞き書き、取材文など、幅広い分野で活躍。著書に詩集『たったひとつが美しい』。『Japanist』にて「宇宙と人をむすぶ言の葉」を連載。本サイト「力のあることば」や「美し人」公式サイト「美しい日本のことば」を連載

https://www.umashi-bito.or.jp/column/

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