日々是食日 体と心が喜ぶ食の話

水のなかを泳ぐ水

2019.10.18

 先日、見るともなしに見ていたとあるテレビ番組で、ナビゲーターの2人が興味深い話をしていた。水の話である。
 番組に寄せられた「一番おいしいと思う水は?」という質問に対し、1人が「朝一番の水」と答えていた。他にも食事中の水や、ある料理を食べた後の水などいろいろ意見が出たあと、水の質に話が及んだ。水には軟水と硬水があり、ヨーロッパは主に硬水で、日本は比較的やわらかい軟水が多いという。同じ日本でも地域によって軟水と硬水に分かれるそうで、自分が一番飲みやすく美味しいと感じるのは、やっぱりというか、生まれ育った場所に近いところの水なのだそうだ。あるいは出身地の水質に近い水を好む傾向があるという。
「水が合う」とか「水が合わない」という言葉が生まれたのも、おそらく感性の鋭かった先人たちの知恵にちがいないと彼らもいたく感心していた。
 
 生まれ育った場所の水が合うと感じるのは、実家に帰ったときだ。飲み水はもちろん、洗顔や入浴をするとテキメンに違いがわかる。都会の水にすっかり馴染んでキシキシと軋む肌も、地元の水に触れるととたんにゆるゆると柔らかくなるのを感じる。心なしか肌艶もいい。
 故郷を離れてずいぶん経つというのに、不思議と身体は地元の水にすーっと馴染む。人間の体の70%近くが水だから、きっと水が水を呼ぶのだろう。体の奥深くにある水源が、肌に合う合わないを見極めているようだ。
 
 そんなことを考えていたら、注文していた化粧水が届いた。名古屋に本社を持つ国産オーガニックコスメ会社「ネオナチュラル」の化粧水である。同社が運営する母袋有機農場で栽培されたヘチマが主原料の化粧水は、気のせいかもしれないが、なんとなく肌がほっと安心する。これまでいろんな化粧水を使ってきたが、この会社の化粧水が一番肌に馴染むようで、ここ数年贔屓にしている。
 
 その化粧水と同梱されていた会報誌に、なるほどそうだったのかと合点のいくことが書いてあった。「地産地消」の効能についてである。
 地元の食材を食べる地産地消には環境保護や食の安全、生産者と消費者との結束などさまざまなメリットがあるそうだが、最近、そこにもうひとつ、おもしろい効能が発見されたらしい。
 最近話題の腸内フローラ、いわゆる大腸の中に生息する腸内細菌たちのお花畑。その腸内フローラを整えると人気になった発酵食品にも、地産地消があるというのだ。
 一人ひとりに個性があるように、腸内フローラも一人ひとり違った個性があるらしく、それゆえ摂取する発酵食品にも相性の良し悪しがあるらしい。
 同じものを食べてもある人は効果があって、ある人にはまったく効果がないというのは発酵食品に限ったことではない。
 
 腸内細菌で言えば、腸内にはおよそ100兆個もの細菌が生息しており、その種類や数は人によってまちまちなのだとか。しかも、その種類はなんと1歳半までにほぼ決定されてしまうという。だから、どんなにいいと言われる発酵食品や乳酸菌をじゃんじゃん摂っても、腸内細菌との相性がよくなければ豚に真珠、猫に小判である。
 
 何をいまさらと思いつつ、鼻息が荒くなった。1歳半って……。そのころの私はいったい何を食べていたのだろう。
 すでに地元の水も細菌も遥か遠く、私の身体はエセ関東人の様相を形づくり、合うのだか合わないのだかわからないものを日々せっせと詰め込み、溜まりすぎた毒素を絞り出すように吐き出すばかりである。
 
 水や細菌は人の相性も選ぶのだろうか。うまが合うとか、一緒にいて心地いいというのも、水や細菌のしわざかもしれない。
 

〝お味噌がなくなったから、送ってほしい〟
 娘からラインが入った。

〝ママが作ったお味噌はもうちょっと寝かせたほうがいいから、市販のでいい?〟
〝じゃあ、いいや〟
 
「今日の味噌汁、味違うね」と息子。
「わかる?」
「うん。なんか味が整ってるというか。美味しい」
「だよね〜。やっぱりねえ。この味噌、市販のだもん」
「え? あ……」
 
 関東人と関西人。水と油なら彼らは生まれなかった。関東と関西両方の水源をもった彼らは、これからどんな水の中を泳いでゆくのだろう。

 

「株式会社ネオナチュラル」

URL:https://www.neo-natural.com

 

Profile

神谷 真理子

神谷 真理子

もの書き。兵庫県生まれ。

詩、童話創作、聞き書き、取材文など、幅広い分野で活躍。著書に詩集『たったひとつが美しい』。『Japanist』にて「宇宙と人をむすぶ言の葉」を連載。本サイト「力のあることば」や「美し人」公式サイト「美しい日本のことば」を連載

https://www.umashi-bito.or.jp/column/

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