しのの歌
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冷蔵庫の振動聴いてねむる夜の遠い海からうまれた記憶


 人は遠い昔、海からうまれて、死んだらまた海へ帰ってゆくのかもしれない、という考えが頭の隅にある。いつか読んだ絵本の一部だったと思う。冷蔵庫の扉のつめたさが心地良さになる季節が近づいて、不意に覚めてしまった目をまた眠りに戻すために冷蔵庫のモーター音に耳を澄ませながら薄い布団を被り直す夜、何の絵本だったかなと毎回考えて、毎回諦める。ガーガーともゴーゴーとも聴こえる、無機質なのに躍動感のある機械音。少しだけ海鳴りの音に似ているから、毎回思い出してしまうのかもしれない。

 小さい頃は死ぬことが怖かった。死んだら魂が暗い部屋へぽつんと放り出されて一人ぼっちで夜を彷徨うような気がしていて、だからすごく怖かった。

 それでも、何故かはわからないけれど、旅先で海を眺めていると、さみしいとも怖いとも思わなくなる。あまりにも広いからかもしれない。あまりにも青いからかもしれない。浜辺からは見えないだけで、海の奥には色んな生き物が息をしているからかもしれない。海から来て海へ帰るだけ、車輪の壊れた三輪車のような速度で、少しずつ少しずつ、青い方向へ向かって漕いでいくだけ。行き着く先が海なのであれば、きっと怖いことではないのだと思える。わたしは海が好きだ。何故かは分からないけど、深夜の冷蔵庫の音に海鳴りを重ねてしまうくらいに、その景色に安寧の感情を持っている。

 まどろむと瞼の裏側に海の青い色が広がる。冷蔵庫も死んだら海へ行くのかな。初夏の折り畳みベッドの小さいシーツの上では、哲学も海も想像しただけでとても広くて、背中から半ば溺れるようにして眠りにつく。いつか死んだら、海のよく見える野原へ埋められる骨でありますように。

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Profile

三海 詩野

三海 詩野

(みうみ しの)

2001年10月2日生まれ。北関東出身。
全国高校生短歌大会(短歌甲子園)、2017・2018年団体戦2連覇ほか、高校3年間で計7つの全国1位を受賞。
好きな食べ物は葡萄とサバとパンケーキ。将来の夢は自分の歌集を出すこと、葡萄畑の麓に家を建てること。

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