メンターとしての中国古典
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ココロバエ
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曲なれば即ち全し、枉がれば即ち直し

2020.08.12

欠点は美徳

 

「曲(きょく)なれば即ち全(まった)し、枉(ま)がれば即ち直(なお)し」

 この言葉は、老子の一節です。

 その意味は、曲がりくねった木のように役立たずであれば、生をまっとうできる。尺とり虫のように身を曲げておればこそ伸びることもできるという意味です。

 つまり、真っ直ぐのもの(使いやすいもの)は評価されるが、酷使されると疲弊し短命に終わる。人に迎合しなければ評価は低いが、酷使されるリスクは避けられる。自分のペースで暫し歩みを止めてエネルギーを蓄えるからこそ、次のステップへ踏み出せるというのです。

 

 続いて、

「窪(くぼ)めば即ち盈(み)ち、敝(やぶ)るれば即ち新たなり。少なければ即ち得られ、多なれば即ち惑う」

 

 その意味は、くぼ地のようにへこんでおれば、いろいろな物を溜めることができる。古着のようにボロボロであればこそ、新しくなることができる。求める物が少なければ吸収でき、多くのものを手に入れると悩みごとが尽きない。

 つまり、窪み(欠落)は、そこにスペースや余裕が生まれ、受容性が高まる。例えば、過去に大きな失敗をした傷があるからこそ、多くの教訓を得て失敗を回避する知恵が生まれるし、弱者に対し優しく接することもできる。時代が変わり陳腐化したことが誰の目にも明らかになれば、変化へ抵抗が少なくなり改革が加速する。あれもこれもとすべてを求めると、呪縛にかかり身動きが取れなくなる。

 過去への執着は災いをもたらし、欠点は美徳に転換するというのです。

 

理想の姿とは

 

 さらに、「ここを以(も)って聖人は一(いつ)を抱きて、天下の式(の)と為る。自ら見(あらわ)さず、故(ゆえ)に明らか、自ら是(よし)とせず、故に彰(あら)わる。自ら伐(ほこ)らず、故に功あり、自ら矜(ほこ)らず、故に長(ひさ)し」

 

 その意味は、だからこそ聖人(理想の人)はたった一つの「道」を守り、世の模範となっているのだ。自ら目立とうとはしないからこそ誰もが気づく、自らを肯定しないからこそ誰もが認める。自らを自慢することがないからこそ誰もが称える、自慢することがないからこそ長く「道」を保てるのだ。

 

道とは

 

 では道とは何か。これが「道」だと言葉で言い表せるものではないが、例えるなら、万物の創造主であり母のような存在である。天地が創られた時には名(国、会社、商品、役職、肩書き、名誉などの名)は存在せず、万物が生み出された後にそれらは名づけられた。

 道というものを企業に当てはめて考えてみると、「創業の精神」に相当するのではないでしょうか。創業当時はお金もなく、設備もない。あるのは志とそれに共感する仲間のみ。海のものとも山のものともわからない会社など、社会的にはほとんど価値は認められません。 

 しかし、事業が成功すると評価は変わります。特に創業者は特別な存在になり、リスペクトの対象となります。売上や利益の大きさ、社員数、時価総額などの数字で表せる企業価値とは別次元の存在価値があり、その原点には創業の精神があります。いくら立派な会社も創業の精神がいなければ、この世に生まれることはなかったのですから。

 

SONYの創業精神

 

 ここで、最近元気を取り戻してきたSONYのホームページより、創業者である井深大氏らによって制定された設立趣意書を見てみましょう。

 

<会社設立の目的>

一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設

一、日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動

一、戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即事応用

一、諸大学、研究所等の研究成果のうち、最も国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化

一、無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進

一、戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供

一、新時代にふさわしき優秀ラヂオセットの製作・普及、並びにラヂオサービスの徹底化

一、国民科学知識の実際的啓蒙活動

 

 戦後の大混乱期に社員と国民の幸福、国家の発展を願った創業の精神は、今も色褪せることはありません。日本国中が焼け野原となっていたこの頃に比べれば、現在のコロナ禍など十分に乗り越えられるでしょう。また、戦後の社会も経済も混乱しているカオス期に多くの起業家が誕生しました。同様に現在のコロナの混乱の中からチャンスをつかむ起業家が新たに生まれてくることを期待しています。

 

変化はチャンス

 

 世界的にコロナ感染が長引き、今まで当たり前だったことが失われています。

 例えば、ある意味グローバル化の象徴であった航空機業界が瀕死の状態です。日本経済を救うと言われたインバウンド市場は消失しました。コミュニケーションで重要視された会食や宴会が大きな感染リスクとなっています。

 会議や商談も対面からオンラインへの転換が加速し、常態化していくでしょう。トップダウン型で部下の尻を叩いていた管理職も、部下と目線を合わせて部下の自主性や持ち味を活かしサポートするスタイルへと転換を迫られるでしょう。私自身も対面でのコンサルティングや研修から、オンラインへと転換を図っています。

 環境が変わると商売や仕事のルールが変わり、強みが弱みに、弱みが強みに変わっていきます。進む方向が反転すると先頭が最後尾になり、最後尾が先頭になります。現状を守ろうとすると変化は恐怖に、現状を創造的に破壊しようと思えば変化はチャンスになります。

 

持ち味を活かす戦略の再構築

 

 過去の考え方ややり方が時代の要請に適合しなくなったのであれば、違うやり方を試すしか活路を見い出せません。無からのスタートと考え、しっかりと戦略を練りたいものです。戦略の基本は会社や自分の持ち味(強みと弱みの合わさったもの)を活かすこと、これは普遍の真理です。無からと言っても既成概念を捨てるということであり、これまでに培った持ち味は活かすべきです。しっかりと人・物・金・情報・ネットワーク資源の棚卸しをして、持ち味を活かす戦略シナリオは作りましょう。そして、尺とり虫のように不格好でも大胆に、未来への歩を進めていきましょう。

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Profile

三村 邦久

三村 邦久

1961年、兵庫県生まれ。

株式会社アイパートナー代表。中小企業診断士。著書に『「愚直経営」で勝つ!』(PHP研究所)、『豊かな働き方 貧しい働き方 自分と組織のマネジメント論』『うーにゃん先生の持ち味コーチング』(いずれもフーガブックス)。

株式会社アイパートナーHP

http://www.i-partner.co.jp

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