メンターとしての中国古典
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下情は下事と同じからず

2019.12.31

 この言葉は佐藤一斎の「言志四録」の一節で、部下を持つ人が心得ておくべき重要なポイントを示しています。佐藤一斎の言志四録は中国古典ではありませんが、江戸末期に昌平坂学問所のトップであった佐藤一斎が、四書五経を完全マスターし、日常の生活レベルまで落とし込んでくれた良書です。

 

 さて、本文は「下情は下事と同じからず」に続きがあり、「人に君たる者、下情に通ぜざるべからず。下事は則ち必ずしも通ぜず」となっています。

 この意味は、「下情(部下の気持ち)は下事(下の人の仕事内容)と同じではない。人の上に立つ者は、下情に通じていなければならないが、下の者の仕事の細かいやり方などには通じている必要はない」です。

 つまり、人材をうまく活用するには、部下の気持ちに気を配り、やる気を引き出すことが大切である。仕事のやり方の細部まで知ってしまうと、「ああしろこうしろ」と重箱の隅を突くようなことになり、部下のやる気をそぎ、自主性と積極性、そして創意工夫の機会を失ってしまうというのです。

 

ダメなマネジャーの特徴

 

 部下の力を引き出せないダメなマネジャーの特徴は、プレーヤーとして実績をあげ優秀と評価されてマネジャーに抜擢されると、未熟な部下に対し「自分の方が優れている、自分がやった方が早く正確なものができる。未熟な部下にやらせると失敗してリカバリーが面倒だ」と考え、何でも自分でやってしまう。結果、自分は忙しく、部下は育たないという悪循環を招きます。まさしく名プレーヤー名コーチならずです。

 ここで、佐藤一斎の言葉が効いてきます。部下の仕事のやり方は知らなくていい、しかしどんな気持ちで働いているかを知ることがわかれば、適切な対応ができると。部下を持つ人の共通の悩みは、部下や社員のやる気をいかに引き出すかです。人の心は常に変化し、移ろいやすいものです。百人十色、絶対的な方法はありませんが、どんな時に人はやる気が高まるのかを知っておくことは大事です。ここで私が講師をする研修やワークショップで抽出したやる気の源泉をご紹介したいと思います。

 

やる気が出る時とは

 

 メーカーの現場リーダーの研修で行ったブレインストーミングでは、こんな意見が出てきました。

 

●好き、得意、持ち味を活かす

 自分しかやれない仕事ができた時、自分のやりたい業務が与えられた時、

 好きな業務を与えられた時、得意な仕事をする時

●順調、余裕

 納期に余裕がある時、気持ちに余裕がある時、仕事でトラブルがない時、仕事が定時で終わる時

●ゴールが見える

 やるべきことがきちんと見えた時、目標達成の直前、

業務を終えるて早く帰宅できる時

●いい結果、目標達成

 目標が達成できた時、改善がうまくいった時、いい結果を残せた時

 改善して自分の仕事が楽になった時、仕事が思い通りできた時

●承認・評価される

 人から頼られた時、重要な仕事を任された時、ありがとうと感謝された時、

 提案が採用された時、改善を褒められ評価された時、上司に褒められた時

●良好な人間関係、一体感

 上司と仕事を一緒にやる時、周りの人と共同作業した時、

仲間が助けてくれるとき、好きなものを共有できた時

●新しい取組み

 新しい業務についた時、新しいことに挑戦する時

●成長

 仕事を覚えた時、知識が増えた時、自分の成長につながる仕事をする時

●次に楽しみがある

 仕事後の予定が楽しみな時、給料日、ボーナス直前、連休前

●プラーベートが良好

 体調が良い時、いいことがあった時、個人的に欲しいものがある時

●良い環境

 使う設備がきれいな時、掃除した時、上司がいない時

●主体性、没頭

 精度出ししている時、故障など自分主体で直す時

●良い刺激がある

 頑張っている人を見た時

●緊急事態

 追い込まれた時、短い期間で大量の仕事がきた時、期限ギリギリの時

 

仕事は楽しいか?

 

 また、仕事の楽しさ・喜びはどんな時に感じるかと言う質問を投げかけて、討議していただくと、こんな意見が出てきました。

 

何かをやり遂げる喜び(達成感)、人から必要とされ・頼られる喜び

感謝され・認められる喜び、好きなことに没頭する喜び

新しいものを発見する喜び、学び成長する喜び

自分らしさを表現する喜び(持ち味発揮による貢献)

自由(責任)の喜び、創造する喜び

尊敬される喜び、人や社会と繋がる喜び  

給与やボーナスが貰える喜び

などです。

 

 いろんな人を対象に実施しましたが、仕事の喜びへの感度は自営業の人が高く、一般事務職の人が低い傾向があるように感じます。

 また、これらの内容をよく見てみると、経営者や管理者が部下に求める内容と仕事の喜びとが一致します。つまり、仕事の喜びを追求すると顧客満足は上がり、目標達成し業績は上がることになります。

 一方、「目標を達成せよ! お客様を喜ばせよ! 成長せよ! 新しいアイデアを出せ! 創造性を発揮せよ!」と直接的に部下に結果を求めると、部下はやらされ感を持って、仕事の喜びを失ってしまいます。

 ですから、顧客満足を上げ目標を達成し業績を上げたいなら「仕事は楽しいか? どうすれば仕事を楽しくできるか?」と尋ねてはどうでしょうか。

 

エンパワーメント再考

 

 エンパワーメントという言葉は、私がコンサルタントになりたての約30年前に、日本IBMの方から聞きました。その言葉は初めて耳にし、調べてみると権限委譲に近い感じでした。現在日本でこの言葉は「方針管理」と紐つけられて使われているようです。組織や部下を管理し統制するツールとして使われ、本来の意図から外れたものになっているのではないでしょうか。

 エンパワーメントの由来は、中世カトリック教会の法皇が王や諸侯に権力を授けることや、公的な権威・法律的な権限を与えることを意味していたようです。

 今日のエンパワーメントという概念を作ったのは、ブラジルの教育思想家であるパウロ・フレイレ氏の業績だそうです。彼はラテンアメリカの識字教育で大きな成果を挙げました。特筆すべきは、単に言葉の読み書きを教えるのではなく「意識化」という手法を採ったことです。彼は言葉の読み書きを、自分たちの境遇を理解し自分の暮らしや生活を変えていく能力として教えました。パウロ・フレイレ氏の教育実践から、エンパワーメントという言葉には「抑圧され、本来有している力が失われている個人や集団に働きかけ、能力を開花させる」という概念が結びつくようになったようです。

 

 何事も方法論に走ることなく、本質的な意味を認識することが大切ではないでしょうか。

Profile

三村 邦久

三村 邦久

1961年、兵庫県生まれ。

株式会社アイパートナー代表。中小企業診断士。著書に『「愚直経営」で勝つ!』(PHP研究所)、『豊かな働き方 貧しい働き方 自分と組織のマネジメント論』『うーにゃん先生の持ち味コーチング』(いずれもフーガブックス)。

株式会社アイパートナーHP

http://www.i-partner.co.jp

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