文筆ウーマンの子育て奮闘記
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石の上にも三年、な話

2019.04.01

Episode4 

 

桜咲く4月になりました。

いよいよ新学期も始まる季節、子育て世帯はなにかと忙しい時期でもあります。

わが家の長男はこの短い春休みに、ヨットクラブの遠征に行ってきました。

20人以上の参加者の中で、1年生はわが子ひとり。バスに揺られ、大阪のヨットハーバーで行われるレースに出場しました。

 

真夜中に着いて、翌朝7時には点呼。9時にはレース開始。

120センチの、学校でもひときわ小さなわが子も、お兄さんたちと同じ大きさのヨットを一人で操縦します。(一人乗りヨットです)

風が強くても大変。風がなくても大変。決められた海上のコースを規定通りに通過し、1レース10分以内にゴールしないと失格になります。

 

この日のレースは、8レース。

翌日はお兄さんたちのクラスのレースがあり、

3日目は再び息子のクラス、9レース。

全部で17レース出場し、すべての点数の合計を競う、ハードなレースです。

 

自分から遠征に行くと言い出したわりに(コーチから打診があった子供だけが行けます)、出発前にシクシクと肩を震わせて泣き出した長男でしたが、

どうやらすべてのレースに無事出場できたようです。

 

毎日送られてくるコーチからの報告と写真を見ながら、母は心で応援するしかありません。

最終日は悪天候の中。よくもこんなに過酷なレースを、7歳の子供ができるなぁ。

わが子ながら誇らしく思います。

 

長男は、幼稚園年中さんからヨットクラブに入っています。

ヨットクラブと聞くと、「セレブ!」とか「おしゃれ!」

と思われがちですが、わが家が入っているのはハイソなヨットクラブではありません。

 

そして、ヨットクラブに入れた理由も、おしゃれな理由ではありません。

 

横浜の幼稚園に通っていた長男には、地元・鎌倉のお友達がいませんでした。

小学校に上がった時に、知り合いが誰もいないのは不安ではないか?

幼稚園以外にもお友達がいたほうがいいのではないか?

そして、海の近くに住んでいるのだから、津波や高潮、海の脅威をいつ受けるかわからない状況の中、せっかくならば海に親しむことのできる習いごとはないか。

 

そうしてたどり着いたのが「日本で唯一、幼稚園生から入れるヨットクラブ」でした。

 

幼稚園生がヨット? まあ、無理です(笑)。

実際は、コーチがヨットに乗せてくれたり、波の高い時はクルーザーやモーターボートに乗せてくれたり、波打ち際で遊んで終わり、という日もありました。

台風などの悪天候の日は、クラブ内でロープの結び方を学んだり、海洋学習と称して、魚の絵に色塗りしたり(笑)。

なんとも平和で楽しい幼稚園時代の2年間(年中・年長)を過ごしました。

 

さて、昨年の春に小学1年生になり、ヨットクラブも「キッズ」クラスから、「ジュニア」クラスへ進級。キッズは幼稚園の2年間だけですが、ジュニアは小学校1年生から、大学生まで含まれます。

実際には、大学生はコーチ見習いとしての扱いです。

 

ゆるーいキッズ生活を楽しんだ後、ジュニアに入るといきなり「スパルタ・スポ根風」のクラブになります。

まずは点呼! イチ!、ニ!、サン…! 聞こえない! もう一度!

と怒鳴られるところから始まり、お兄さんたちの中で大きな声を出せないわが子はすでに半べそです。

海での活動。行くときと帰るとき。人数が合わないと生死にかかわります。だからこその厳しさだということを、ここでしっかりと学びます。

 

練習も自ら積極的に入っていかないと、何も教えてくれません。

何をやっていいかわからずにぼーっとしていると、「ほら、そこの○○番! 動け!」と、

ゼッケン番号で呼ばれ、最初は名前すら覚えてもらえません。

 

多くの子供たちは、キッズからジュニアに入ったとたんに辞めていきます。

(辞める理由はいろいろあって、考えるところがあるので、これについてはまたの機会にしたいと思います)

 

わが子も、「行きたくない」と泣きながらウエットスーツに着替える日々でした。

毎日のお風呂の時間が、私と長男の対話の時間です。

二人で狭いお風呂に入り、向き合って座る。体が温まるまで、毎日いろんな話をします。

「ヨット辞めたい」

「明日は行きたくない」

 

そんなわが子を、いろんな言葉で励まして、行かせ続けました。

幼稚園の時も、活動自体は楽しくても、やはり真冬の海に入るのは小さな子供には辛かったようで、冬の期間はとくに泣きながら通っていました。

 

それでも毎日のお風呂で励まし、諭し続けました。

「石の上にも三年っていう言葉があってね。なんでも3年やってみたら、きっと続けてた意味がわかってくるんだよ。楽しくなってくるんだよ。ヨットを楽しむためには、まず3年やってみよう。3年やったあとにしか、見えない景色があるし、続けないと体験できないことがたくさんあるんだよ」

 

4歳の幼稚園児に意味がわかっているかは謎でしたが、そこは「石の上にも三年」。

子供が3年頑張るのだから、親も最低3年間は言い続け、励まし続けようと決めました。

 

私の子育ての基本は、なるべく大人と同じように話しかけること。

とくに長男はもともと頭の回転が早い子供だったので、いろいろな場面にそのシチュエーションに合うと感じた言葉を話しています。

ときには、ことわざ、ときにはゲーテなどの名言。

今すぐにわからなくてもいい。きっといつか。そういう気長な気持ちで言い続けることが大切だと思っているのです。

 

さて、その息子くん。1年生の夏に、初めてレースに出場。このときは熟練のお兄さんたちと一緒に一人乗りヨットを操縦する「タンデム」クラス。大会の中では、ちびっこ向けのおまけみたいなレースです。

でも、一緒に組むお兄さんたちを、自分たちで探してきて交渉するところから始まります。

1年生にとっては度胸試しにもなります。

 

タンデムを2回経験してから、秋にコーチの推薦があり、単独レースに初出場。1年生では唯一の参加でした。

小さな体のわが子は、懸命に操縦しますが、ヨットが倒れます。長男は海に飛び込みます。

ヨットの反対側に回って、ヨットを起こそうとしますが、体重が軽いので時間がかかります。倒れたヨットは、帆が海面にへばりつき、水面張力によりさらに重たくなっています。

何度、沈しても、何度でも起き上がります。

どんなにコースから取り残されても、最後までゴールを目指します。

初めてわが子の単独レースを見ていた私は、感動のあまり双眼鏡が涙にぬれました。

自分でもできないであろうことを、あんなに小さな子がたった一人で大海原でチャレンジしています。

 

タイムアウトになったり、最下位だったり。

午前の2レースを終えて、泣きながら海から上がってきました。

「もう帰りたい」消え入りそうな声で、言いました。

 

でも、彼の頭には「石の上にも三年」という言葉がありました。

「辞めるのは簡単だけど、それでいいの?」

ママとお風呂場で何年も繰り返された問答が、頭をよぎります。

 

おにぎりを食べて「やっぱりレースに出る」

海に向かって歩き出した背中は、一年生とは思えないほど、大きく逞しく見えました。

 

そうして冒頭に書いたように、ハードなスケジュール、ハードなレースを行う遠征に自ら行くことを選び、そして全うして帰ってきました。

この3年の息子の成長が、とてもまぶしい今日この頃です。

 

そんなわが子が、ある時お友達に

「石の上にも三年、だからさ。空手やり始めたんだけど3年経ったら今よりもっと楽しくなるんだよ」

 

と話していたと、そのお友達のママさんから聞きました。

そのママさんは驚いて「1年生であんな風に話せるなんて、すごいね!

Yくん(わが子のこと)、ことわざとか好きなの?」と聞いてきました。

 

そうか、君はちゃんと、その言葉の意味がわかっているんだね。

立派な言葉も、体験して初めて、心から理解できるようになるものです。

ことわざをゲームのように暗記するだけでは、その深い意味を理解したとは言えません。

 

文豪ゲーテは、こんな言葉を残しています。

 

「暑さ寒さに苦しんだ者でなければ、英雄の価値などわかりようもない」

 

幼稚園のころ、ヒーロー番組が大好きで、真っ赤な洋服しか着なかった長男。

(戦隊ヒーローの主人公はたいてい赤い服を着ている)

きっと、今の君にならわかるでしょう。

 

本当のヒーローになるために、戦うのは敵ではなく、自分自身だと。

そして、自ら進んで、過酷な遠征やレースにチャレンジする七歳の君は、ママのかっこいいヒーローです。

 

もうすぐ2年生。サクラサク空の下。

かっこよく1年生を迎えておくれ。

 

皆さんの心にも、素敵な花が咲きますように!

 

Schoenen Tag noch!

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