日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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侘び、いうのはな、お詫びのこっちゃ

立花大亀

 大徳寺の立花大亀和尚の言葉である。和尚は、かの松下幸之助を茶席で叱咤したと言われている。「あんたのせいで物ばっかりの世の中になってしもた。責任とってもらわなあかん」と。(こういう言い方をしたかどうかはわからないが)「松下政経塾」創設の発端である。この言葉は、茶人の千宗屋氏が和尚に侘びの意味を問うたときの返答だそうだ。
 
 ある人が言った。
 近年の世界におけるアニメブームは、19世紀末に興ったジャポニズムの再来だと。
 たしかに、ゴッホやマネ、モネ、ゴーギャンらをも魅了した浮世絵は、今でいう漫画やアニメと同じだし、工芸や装飾などは、キャラクターグッズやコスプレと通じるものがある。
 
 日本人に至っては、グローバリスムという名の下に、逆輸入のような形で日本文化の見直しが起こっている。
 禅人気は高まる一方で、茶道、華道、剣道、柔道、空手道などの道人気は言うに及ばず、神社めぐり、寺めぐりなど、寺社仏閣人気から宗教への関心も高まっている。
 
 それらの人気が、形だけでなければいいのだか……。
 
 利休さんは、今日の日本の様子を予言するかのような言葉も残している。
「自分は侘び草庵の茶の湯を完成させたが、自分の死後、やがてこの茶は百畳二百畳の茶となるであろう。これ利休が罪なり」
 
 良かれと思って作り上げたものも、われもわれもと押しかけて、やがて本文を見失ってしまうと言っているのだ。
 
 利休さんが確立させた侘び茶の世界は贅を凝らさない、簡素なお茶だ。
「家はもらぬほど、食は飢えぬほどにて事足れり」である。
 
 一方、今はどうか。
 あれもほしい、これもほしい。
 あれもしてくれ、これが足りない。
 もっと、もっとと、十分に持っているのに、手を出す人のなんと多いことか。
 
 利休さんが危惧した、欲にまみれた日本の姿が現状だとしたら、〝ジャポニズム〟とは一体、なんなのだろう。
 
 いただきます。
 ごちそうさま。
 ありがとう。
 おかげさま。
 
 これらの言葉は、生かされていることへの感謝の言葉ではなかったか。
 人間が生きるために犠牲になった生き物たちへの、詫びる心ではなかったか。
 
 必要以上の殺生をするのは人間だけ。
 知らず気づかず、生き物を殺生したり、誰かや何かを傷つけたり迷惑をかけていることもある。
 
 だから、詫びる。
 詫びて頭を垂れるほど、心中は清らかになってゆく。
 サビを帯びた鉄も、身中に輝きを秘めているように。
 
「わびさび」「清貧」。
 世界を魅了したジャポニズムは、こういうものだったんじゃないのかな?

 

「美しい日本のことば」連載中

(190723 第560回)

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紺碧の将

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