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紺碧の将
Interview Blog vol.76

本当にいいと思う本だけを、自信をもっておすすめします。

「読書のすすめ」スタッフ小川貴史さん

2019.05.10

ベストセラー本は置かない、読んでいいと思った本しか取り扱わないという風変わりな書店「読書のすすめ」。店主であり、本のソムリエとして知られる清水克衛店長のもとで右腕を目指して働くスタッフの小川貴史さん。清水店長いわく「僕より人気があるんですよ」との言葉どおり、人との垣根をつくらないその人柄は飄々として、お客さんへの接客も自然体。さらりと本をすすめられると、思わず買ってしまいます。

そんな小川さんも最初は相手の心が察せられず、失敗ばかり。ところが、あるご夫婦との出会いで状況は一変。今は仕事が楽しくてしかたがなくなっています。

本嫌いがハマった書店

「読書のすすめ」は『Japanist』でも清水店長の記事を掲載させていただき、弊社の本もたくさん取り扱っていただいています。そもそも、清水店長との出会いはどういうものだったのですか。

 大学2年のときに父が亡くなったのですが、気持ちのやり場がなくなって図書館へ行き、手にとったのが店長の本だったんです。今はもう絶版になってしまった『本調子』(総合法令出版)という本です。その本を読んで、この人に会いたいと思い、店を訪れました。

店長と会えましたか。

 いいえ、そのときは不在でした。ただ、おもしろそうな本がたくさんあって、店員にすすめられるままに本を買って帰りました。それから何度も足を運ぶようになって、そのうち清水店長とも会うことができました。「読書のすすめ」に来ると、同い年のお客さんや自分と同じような境遇の人がいて、こんな世界があったのかと嬉しくなりました。

もともと本は好きだったのですか。

 まったく好きじゃなかったです。世界中で一番嫌いっていうくらい、本は嫌いでしたね。

それなのに、なぜ本を読もうと思ったのですか。

 父が本好きだったんですよ。暇さえあれば本を読んでいる人で、そんな父を見て、当時の僕は「無駄なことをしている」としか思っていませんでした。ところが、父が亡くなったのをきっかけに、本を読むようになったんです。

 まさか父がいなくなるなんて思ってもみませんでしたから、どうしていいかわからなくて。人に相談できることでもないし、相談された方も困りますしね。いろいろ思い悩んでいたときに、ふと本を読んでみようと思ったんです。

お父さんの姿を思い出したのですね。それで図書館に行き、清水店長の本と出会った。「読書のすすめ」で買って、最初に読んだ本はなんですか。

 山本一力さんの『だいこん』という時代小説です。この本を読んで、物語の世界の中とはいえ、自分だけが辛いわけじゃないんだと気づきました。それからいろんな本を読むようになって、世界が広がりました。辛いことがあっても、本を読むと、自分だけが辛いんじゃないんだとわかるんですよね。自分は何をやっているんだろう?と思いましたね。いろんな人の人生が詰まっていて、擬似体験ができる。本って不思議ですよね。

本嫌いだったのに、今では書店で働くくらいどっぷり本にハマっているというのも面白いですね。大学では何を専門に勉強していたのですか。

 経済です。でも、まったく勉強はしていませんでした(笑)。大学も二浪で入ったくらい成績も良くなかったですし、遊んでばかりいました。父が亡くなるまで、ほんとうに何も考えずに生きてきたんですよ。大学に入る前の高校時代は、麻雀をしたりゲームをしたり、なんの苦労もなく毎日を楽しんでいました。

 父が亡くなってから状況がどんどん変わっていきました。祖母も亡くなり、友人も亡くなり……。そのとき、はじめて死ということを考えました。人間いつ死ぬかわからない。一日一日が大切で、わずかな時間も無駄にはできないと思いました。

自分に嘘をつかない選択

大学を卒業してすぐ、こちらで働き始めたのですか。

 いいえ。しばらくはアルバイトをしていました。大学を卒業をした後も就職はしませんでした。というのも、就活の面接のときに志望動機を必死に語っている同級生たちを見て、「みんなどこかでウソをついている」と思ったんです。内定をもらうために思ってもいないことを言うなんておかしい、と。それで就職できたとして、絶対に後々後悔すると思ったんです。そんな無駄なことに大切な時間を使いたくないと思って、清水店長に相談しました。

店長は何と?

「今すぐ(就活を)やめろ」と(笑)。相手から請われこそすれ、「自分から就職させてくれ」と言って頭を下げている時点で負けている。向こうからオファーが来るくらい力をつけろと言われました。

さすが清水店長ですね(笑)。これから社会人になろうとする若者に、なかなかそうは言えないです。就職をしないということは、フリーターになるわけですよね。

 はい。1年間居酒屋の厨房でアルバイトをしました。週に5日程、昼から夜まで。金曜日は、昼の1時から翌朝5時まで、とにかく働きましたね。「読書のすすめ」に来て、毎回1万円分くらい本を買っていました。

「読書のすすめ」で働くようになったのは、いつからですか。

 11年前ですから、2008年からです。ある日思い切って、店長に「手伝わせてください」というと、「今週から来れる?」と言われて、面接もなくその週から店に立っていました(笑)。それまでも、客なのに他のお客さんに本をすすめていたんです。すすめるのが楽しくて。でも、実際、店員になってみると、そう簡単ではないこともわかりました。たくさん本を読まないとすすめられない。ジャンル問わず、いろんな本を読むようになりました。最初はアルバイトでしたが、まさか今のようになるとは思っても見ませんでした。

本をすすめることの、どこが楽しいですか。

 自分がすすめたものと、相手が求めているものが一致したときですね。相手が望むものを提供できたというのは、ほんとうに嬉しいです。この店はマニュアルがないですから、自分が読んでいいと思うものを自由にお客さんにすすめられるのはいいですね。

 以前、ここと平行して某大型書店でアルバイトをしたことがあったのですが、販売マニュアルがあって窮屈でした。お客さんに本をすすめると怒られるんですよ。「マニュアルどおりにやれ」と。一人を特別扱いできないからという理由はわかりますけど、訊かれたら応えたいし、いいと思う本ならすすめたいですよ。お客さんも喜んでくれるんだからいいじゃないですか。そうすると、しだいに僕のレジのところに少しずつお客さんが集まるようになっちゃって、余計、目をつけられました。でも、何度注意されても自分のやり方を貫きました。1年後くらいには店側が折れて、暗黙の了解で許されるようになっていました。

一般の書店で客に本をすすめることは、ほとんどないでしょう。

 今でこそ、店長も「本のソムリエ」として通っていますが、11年前の店員になった当時はまだそういう概念がなかったですからね。そのときの経験でわかったことは、僕はサラリーマンにはなれないということ(笑)。マニュアルどおりにはどうしてもできないです。臨機応変に接客ができる「読書のすすめ」が、僕には合っていました。

清水店長もそうですが、小川さん自体、周りの人とはちがう考え方をしますよね。昔からそうだったのですか。

 どうなんでしょう。ちがうかもしれませんね。両親からああしろこうしろと言われたことがないし、怒られたこともないですから、自分で考えるしかなかったということもあって、人とは違う考えをするようになったのかもしれません。何も言われないからこそ、逆に怖かったですよ。

「みんなで何かをする」とか、「みんなでわいわい」というのは、正直苦手ですね。ただ、合わせることはできますから、みんなで何かをするときは割りきってやってます(笑)。

自由に接客ができるといっても、いつもうまくいくとは限りませんよね。

 もちろんです。失敗はいっぱいあります。そっけなく返されることもよくありますし、話しかけても、なかなか打ちとけられなかったり。若い人たちに、説教くさいことを言って嫌がられたこともあります。喜んでくれた人もいるにはいましたけど、相手の求めているものがわからなくて悩みました。

それを、どうやって打開されたのですか。

 そのときに思いついたのは、これぞと思った一冊の本だけをすすめるということです。どんなお客さんでもハズレはない、誰の心にも引っかかりそうな一冊のみを、どのお客さんにもすすめようと決めました。すると、ほとんどのお客さんが買ってくれました。

なんという本ですか。

『サラとソロモン』という児童書です。いわゆる引き寄せの法則を物語にしたもので、サラという女の子と賢者であるフクロウのソロモンとの冒険ファンタジーです。今でも忘れられないのは、あるご夫婦にすすめたときのことです。

 いつものように、この本をすすめたら買ってくれて、その後、雨の日にまたご夫婦で来店されたんです。お客さんが言うには、「交通事故にあったけれど、あの本を読んでいたから救われた。あなたに助けられた」と、お礼を言われました。

どういう内容なのですか。

 サラという女の子は、世の中に対して不満が多く、愚痴ばかり言ってるんです。それが、賢者であるフクロウのソロモンに出会い、「見方を変えてごらん」と諭されたことで、どんどん変わっていくという話。どんなことも、見方をかえれば悪いことも良いことに変わる、という教訓が随所に散りばめられている物語です。ご夫婦は事故にあったとき、この話を思い出して事故のショックから立ち直られたそうです。それ以降、何度も足を運んでくれるようになって、おすすめの本を買ってくれるようになりました。

 僕自身、そのことがきっかけで、仕事の楽しさを知りました。今までは自分で壁を作っていただけで、もっと自信をもってすすめないとダメだと気づいたんです。今は、お客さんが何を求めているのかが、なんとなくわるようになりました。

カメの歩みで天命を生きる

そういえば、お茶を習われていると聞きましたが。

 はい。清水店長のお義父さんが茶人なので、週一回、通っています。大好きなこの店のスタイルを作ったのは店長ですから、働かせてもらう以上、もっと店長のことを知ろうと思ったんです。店長を知るためには、まず、ベースであるお義父さんを知る必要があると思って、お願いしました。

習い始めてどれくらいになりますか。

 8年くらいです。お茶の世界は奥が深くて楽しいですよ。最初、先生は作法を教えてくれても、なぜそうなのかを教えてくれたことはほとんどなくて、ひたすら同じことを繰り返すだけでした。ところが、最近、なぜそうなるのか、ということを少しずつ説明してくれるようになったんです。すると、今まで疑問に思っていたことが、ストンと腑に落ちるようになったんです。茶の中には宇宙があり、すべては陰と陽でできている。すべては和合なんだということが、なんとなく理解できるようになりました。まだまだ分からないことばかりですけどね。それは日常も同じで、悪いことがあったあとにはいいことがあり、反対に、いいことのあとには悪いことがあるというふうに、すべては陰陽のバランスで成り立っているんだということを日々実感しています。

茶道は日本文化の象徴だと思います。かつては武士の嗜みとされていましたよね。

 武士と言えば、ある人から、あなたの骨相は武士のようだと言われたことがあります。だから、何かを学ぶのも「自分の血に合う」ものを選ぶといいと教えてもらいました。実際、剣道をやっていたことがあるし、時代劇も好きですから、なるほどと思いましたね。

血に合う学びですか。それは面白いですね。これから新しいことを学ぼうとか、あるいは夢や目標はありますか。

 それはないです。というか、昔から、とくに夢というものを持ったことがないんですよ。まわりの人に「夢はなに?」と聞かれても答えられなくて、将来の夢や、こうなりたいという願望がないのはおかしいんだと思っていました。でも、それはおかしいことじゃなく、タイプの問題だったんだということを、最近読んだ本で知りました。もともとあまりごちゃごちゃ考えない、というか、考えられないんですよ。これまでもそうでしたが、頭で考えたことよりも、心で思ったことや感じたことをやったほうが、不思議とうまくいくんです。頭でいいと思ったことをやってみて、うまくいったことはほとんどありません。

心や体は正直ですからね。その本は、なんという本ですか。

 白駒妃登美さんが書かれた『天命追求型の生き方』という本です。

 本来、日本人は天命を追求していく生き方だったのが、西洋文化が入ってから目標達成型の生き方が主流になったと書いてあって、なるほどと思ったんです。多くの人は目標をかかげて、それに邁進して達成する生き方を選ぶけれど、僕は生粋の日本人タイプで、目の前のことをコツコツと積み上げていくタイプ。いわゆる、「ウサギとカメ」のカメタイプです。そういうタイプは、目の前のことを黙々と取り組むうち、導かれるようにして人生が進んでいくのだそうです。僕の人生を振り返ってみても、たしかにそうだと思うことが多いですね。目標や夢はないけれど、「いつかみてろよ!」という気持ちはどこかにありました。できることを一つに決めるのは可能性を一つに限定してしまう気がして。一つに決めなかったから、今のように思ってもいなかった仕事で楽しく働くことができていると思うと、あながちカメタイプも悪くないな、と思います。

それは、多くのカメタイプの人の励みになります(笑)。仕事が楽しいと思えるのは幸せです。これからも、いい本をたくさん紹介してください。

【読書のすすめ】

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