人の数だけ物語がある。
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紺碧の将
Interview Blog vol.63

本が人の生活に寄り添うように、自然とそこにあるような環境を生み出したい。

うさぎや株式会社 TSUTAYA事業本部副本部長 本部門統括髙田直樹さん

2018.11.21

 

TSUTAYAと提携し、多くの店舗を展開する複合書店うさぎや株式会社。本部門統括という立場で活躍をする髙田さんは、現状をこう表現します。「やりたいことと会社での役割が合致しているんです。だから仕事と趣味の境界線がないんです。ラッキーとしかいいようがないです」しかし、詳しく話を聞くとそれがただの幸運だけではないことがわかります。自分で判断し、やりたいと思うことこそ積極的にやる。それが己の立場を作っていく。髙田さんにとって本とは? やりたいこととは? 目標は? さまざまなお話をお聞きしました。

行動が信頼を生み、自分の立場を作っていく

本部門統括の仕事とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

 各出版社と情報のやりとりをして売れそうな本を各店舗に仕入れたり、売り場のアドバイスをするのが総合的な部分です。あとは各店舗を巡回して、それぞれの改善や向上のための施策、フェアや企画の立ち上げを手伝ったりもします。新規店舗のレイアウトも考えますよ。まっさらな図面を渡されて、一から考えるのは面白いですけど、ある時期に新規店舗の立ち上げが続いたことがあって、そのときはしんどかったです(笑)。

うさぎや株式会社に就職をしたのも、そういった仕事がしたかったからですか。

 本は昔から好きで、高校生の頃にはおぼろげながらも本に携わる仕事に就きたいと思っていました。大学に進学して、就職活動をはじめるときには他の職業を検討することもなくこの業界に入りたいと思い、うさぎやに就職しました。

 就職したての頃はいつか自分の書店を持ちたいという夢があったのですが、働いているうちに個人でやるのは難しいと思うようになって、いつのまにか22年間たっていました。

本部門を統括するようになったのは入社してからどのくらい経ってからですか。

 7年目ごろですね。純粋にこのポジションの仕事だけをやるようになったという意味では9年目からです。というのも、うさぎやでは前例がない役職だったので、最初は店長の仕事と兼任だったんですよ。もともとあった役職に誰かと入れ替わりで就いたのではなくて、本部門の全体を見る仕事をやらせてくださいと会社に希望を出したから生まれた役職なんです。

前例がないポジションだからこそ、希望を出したからといって簡単に任命はされないと思います。詳しい経緯を教えていただけますか。

 店長になる前の、役職もないただの本部門の担当社員だったときから、今と似たような仕事を自分の判断でやっていたんです。売れ筋の本が自分の店舗で在庫切れになることに抵抗があって、出版社に直接交渉をして、何度も何度も入荷をお願いをしているうちに、コネクションができて必要なだけの在庫を確保できるようになりました。他店舗で充分に在庫がないものが自分の店舗にはあるわけですから、次第にこっちの店舗にも少し回して欲しいという要望が多くなって、そのうちに他店舗分の在庫も考慮して仕入れをするようにしました。

 担当する売り場をちょっとでもよくしようと思って必死でやっているうちに、自然と他店舗からもそういう面で頼ってもらえるようになりました。

売れる本の在庫の確保は一筋縄ではいかないようですね。小さい書店だと充分な数を確保できないこともあるとか。そういうことをやっていた実績があるからこそ、会社も本部門統括というポジションを用意してくれたんですね。

 15年前は今よりも売れる本の瞬間最大風速がすごかったというか、売れ筋本を置けばみるみる減っていくような時代でしたから。そういう本って本屋同士で在庫の奪い合いになり、実績と出版社からの信頼が重要になるんです。あの店に卸すと返本も少ないしちゃんと売ってくれると認識してもらえれば、仕入れもスムーズになりますから。会社のトップから直接、他店舗にも在庫を回してあげてくれと指示をもらったこともあります。そういう意味では自分の仕事が会社に認知してもらえていたんだなって感じました。

 経緯と言われても、複雑な事情だったり感動をするようなおおげさな話ではなくって、単純に自分の店舗に必要だと思ったことをやってるうちに自然とこのポジションに就いたという感じなんです。

読みたいときに読みたい本がそばにある環境を

髙田さんはJPIC読書アドバイザーという資格も持っていらっしゃいますね。これはどういった資格なのですか。

 簡単に言ってしまえば、本に関する造詣が深くなるための資格です。出版の歴史や本の勧め方、グループワークで読書を楽しんでもらうための方法を皆で話し合ったり、いろいろ勉強になるんです。

資格をとって髙田さんにとってプラスになった部分というのはありますか。

 もちろん本に関する知識とか、読み聞かせの講義とかそういう知識や経験の部分でプラスになっていますが、一番は本に対する自分の姿勢が確立したことですね。あくまでも自分個人の考えですが、本とはこうあるべきものっていうのがはっきりとしたというか。

本に対する姿勢ですか。

 JPICの講義を受けているときや同期のメンバーとディスカッションをしているとき、本というものが必要以上にリスペクトされすぎてて、神格化されているような空気というか、そういうものを感じました。皆さん凄く真剣でそういう意識はないんでしょうけど、本とは素晴らしいものだ、読まなきゃだめなものだ、読めば素晴らしい人間になれる等の意見が多かったので、それにすごく抵抗があって……。もっと違う考え方もあるんじゃないかなって思いました。

なるほど。それで髙田さん自身は本についてどうお考えですか。

 北風と太陽みたいなもので、ふだん本を読まない人に強制するような姿勢をとっても余計に本から離れてしまうような気がします。本との関わり合いってフランクなもので、あくまでも読書は趣味の一つ、日常の中に自然とそこにあるような存在でいいんじゃないかなって。読みたいと思うときに読みたいと思う本がそばにある環境というのをいかにつくるかの方が大切だと思うんです。

興味のないジャンルの本だと読んでも頭に入ってこないのに、興味があるジャンルの本だとスッと読めてしまいますよね。

 興味のない本を読むのって相当なエネルギーを使うんです。そこで嫌になってしまえばその人にとって本は疲れるものという認識になってしまいます。もしかしたら、次にはいい本に出会えたかもしれないですよね。その芽すら摘んじゃうことになったらもったいないです。

 繰り返しますが、これらはあくまでも僕個人の考えですよ。でもはっきりと本に対して自分はそういう姿勢なんだとわかったことは大きくプラスになったことと言えます。

やりたいと思うことを、やる

仕事のやりがいはどのようなところに感じますか。

 上司や同僚からの一定の評価は糧になっていますけど、今の自分の仕事って趣味のようなものなので、やりがいという燃料がなければ続かないというわけではないんです。好きなことをやってるだけですから(笑)。

 仕事がいやだと思ったことも一度もなくて。今の御時世、本当はよくないことなんでしょうけど、どれだけ残業しようと、家に仕事を持ち帰ろうと、まったく苦にならないんですよね。特に今のポジションではマスト(must)な仕事さえやっていれば、終わりを自分で決められるんです。でも売り場をもっとこうしたいとか、POP広告をつくりたいとか、企画を考えたいとか、マスト以外の仕事もやったほうが自分の好みに近づきますから、やりたくなってやっちゃうんです。

髙田さんにとってそれは、他の人が帰宅後に興じること、例えばテレビを見てくつろぐとか、運動をしてリフレッシュするとか、そういうこととなんら変わりないことなんですね。

 そうですね。やりたいと思うことが業務の延長線上にあるだけなんですよ。だから仕事も、これを勝手にやったら会社から注意されるとか考えないで、自分で考えたことをどんどんやっちゃう。怒られたらやめればいいかなって(笑)。悪意を持ってやっているわけではないですから。

 ある程度の裁量が与えられている職場なのが非常にありがたいです。就職をする前からそういう会社だとわかっていたわけではないので、うさぎやに就職をさせてもらえたことは非常に幸運でした。

しかしマストな仕事だけをやっていたら今の本部門統括という役職には就いていないわけですから、その幸運を自分で手繰り寄せたとも言えますね。

 そうかもしれないですね。最初からその役職になりたいと思って動いていたわけではないので。

 でも、レンタルやCDの部門があって、その中で本部門の仕事もやらせてもらえて、そこで自分でやるべきことを見つけてやったことで会社から認めてもらえて今に至るということであれば、それは努力のおかげとも言えるかもしれませんが、その努力すら好きでやっていただけですから。やっぱり自分がやりたいことと会社での自分の役割が合致したからなので、ラッキーとしかいいようがないです(笑)。

目指すべきところ

仕事と趣味が合致して、ほとんどの時間でやりたいことをやっている状態というのはとても充実した人生ですよね。壁にぶつかったことはなかったのですか。

 それがないんですよね。まず悩むことがほとんどないんです。あー、でも壁ではないんですが、家族には申し訳ないと思うことはあります。子供をあまり遊びに連れて行ってあげられませんでしたし。直接不満を言われたことはありませんが、今思うと、もうちょっと時間を作ってあげたかったです。

 妻の出産のときにも出勤したことがあって……。難産で明け方までずっと腰をさすっていたんですが、医者からまだしばらく時間がかかりそうだって言われたので、「じゃあ、ちょっと店行ってくる」って。その時点で二連休してたこともあって、妻も心配だけど店も心配で。出勤してガーッとやることをやって急いで病院に戻りました。出産には間に合いましたけど、妻にはつらい思いをさせてしまいました。そのことも文句を言われてはいないのですが、心のなかでは「今、会社に行くのかよ!」って思ったんじゃないですかね(笑)。

昔と今の自分でここが変わったなと思うところはありますか。

 社外の人と積極的にコミュニケーションをとるようになりました。昔はほとんどコミュニケーションをとらない人間でしたが、子供が生まれて、だんだんとまわりの環境が変わっていったことで、コミュニケーションをとった方が面白いって思えるようになったんです。人と話すと自分では思いつかないことを気づかせてくれたり、勉強になることもあるし、生まれるものが多いんですよ。

 ある古本市に行ったときに「analog books」さんという面白い品揃えのブースがあって、その出店者の方とコミュニケーションをとって、その方のコーナーを店舗の一角に作ったこともあるんです。(※写真参照)こういう出会いって以前の自分ではあり得ませんでしたから。

今後の目標をお聞かせください。

 地元の宇都宮市では出版文化展というイベントを毎年11月にやっていますが、そういう本のイベントにも積極的に関わっていきたいですし、本に関する活動の領域を店舗の外へもっと広げたいです。いろいろなところで勉強をした経験を活かしながら、自分が考える本の売り場を表現する。もっと自然に、生活の近くに本がある状況をどうやって作り出していくかを考え、来店してくれたお客様に、こんな本があったんだっていう刺激と、あの店に行けば何かあるかもと思ってもらえるような期待感を提供したいです。目当ての本だけ買うつもりが、ふと見かけた本も手にとってもらえるような、そんな本屋でありたいですし、そこを目指していきたいです。

Information

【うさぎや株式会社】

〒321-0954 栃木県宇都宮市元今泉7丁目3番13号

TEL 028-612-8855

ホームページ:http://www.usagiya-web.com

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