人の数だけ物語がある。
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紺碧の将
Interview Blog Vol.53

書店で本を探し、出会い、感動する。そういう場を守っていきたい。

有限会社ベレ出版 相談役内田眞吾さん

2018.08.11

 

ベレ出版の創立者であり、現相談役の内田さんは、本ブログのVol.39で紹介した谷邦弘さんが店長を勤める「那須ブックセンター」のオーナーでもあります。地域に本屋が必要と訴え、書店過疎地域に本の文化を灯すことを目標に「株式会社書店と本の文化を拡める会」を設立。私財を投じて那須ブックセンターを開業しました。学ぶことは本来楽しいことであり、人間にとって一番大切なのは感動する力。本とはそれを与えてくれる存在だと内田さんは言います。

自然の流れの中で出版の道へ

内田さんの人生には常に本がかたわらにありますね。昔から本は好きだったのですか。

 昔から読んでましたね。いろいろなジャンルを読みましたけど、なかでもノンフィクションが多いかな。家には5000冊くらいありますよ。なかなか手放せなくて(笑)。本好きな一面が、この業界へ進む一因でもありましたね。

では子供の頃から、この業界を目指していたのでしょうか。

 目指していた職業はなかったです。なにも考えていなくてね。大学生のときもバイトばかりで、なんとなくで教師になるのかなって思っていましたよ。

 大学院に進んでも相変わらずで、このままじゃいかん、まともになろうと思って。それで大学院を中退して、就職をすることにしました。

 出版社に就職したのですが、是が非でもその業界を希望していたわけじゃなく、たまたまその出版社が募集を出していて、それに僕自身、本が好きなのでそこに就職をしたんです。

出版社で実際に働いてみてどう感じましたか。

 書店に企画を提案しながら本を売るのは面白かったですね。書店というのは編集と一緒だと思ってるんです。数えきれないほど出版されている本の中から、売る本を選んで組み合わせて並べる。店内をレイアウトする。それが書店の面白いところなんです。

 例えばオートバイ雑誌のフェアをやるとき、あえて漫画を真ん中に置いてみたらどうだろうとか、猫の本の企画では絵本、エッセイ、写真集を集めて並べて、それがたくさん売れたんです。楽しかったですね。

その出版社で勤めたあと、 明日香(あすか)出版社の二次創業に参加されています。

 明日香出版社の創立者が、最初に勤めた出版社で一緒に働いていた友人で、共同でやらないかと言われて。 そこは一度出版関係の業務をやめていたんですが、社長がもう一度やりたいということで私に声がかかりました。そこでは約16年勤めました。谷店長と出会ったのもこの頃でしたね。谷さんが出版社巡りで来てたんですよね。

 私の提案で始めたビジネス書が少しずつ軌道にのってきた頃、社長から子会社をつくりたいという話が出たんです。

それがベレ出版を創立するきっかけになったのですか。

 出版の業績が好調で、会社が想定よりも大きくなりすぎてしまったんですね。このままでは見通しがたたなくなると社長は言っていました。そうなる前に子会社に全部任せて、それで僕と社長はゆっくりさせてもらおうと思ったんですが、引き受けてくれる人が誰もいなかった(笑)。それなら独立という形になってしまうけど私がやりますと言って、引き受けたんです。

 今考えると自然の流れの中でそうなったと感じますね。最初の出版社では人脈やノウハウを、明日香出版社ではナンバー2という立場から社長の仕事を見ることができたので経営の手腕を学べて、それで今度は自分が経営者になって。狙ったわけじゃないんですけど、気がついたらそういう流れに乗っていたんです。

いつも、学ぶ人の近くに

ご自身が経営者になられて、どんな出版社にしようと思いましたか。

 ビジネス書は明日香出版社で長いことやったからもういいかなと。「ビジネス書をやらないなら何をやるんですか?」って聞かれたとき、「生涯学習のテキストをやりたい」って答えました。学習参考書ではなくて、大人が勉強するための本。それも専門家ではない普通の大人がターゲットです。高校の5課目に沿った本を作りたいと思いましたが、最初は語学からやりました。

生涯学習に着目したのはなぜですか。

 簡単な話です。なかったからですよ。例えば語学書って旅行用英会話の本か大学のテキストくらいしか当時はなかったんです。語学に限らず、初級の入門書か上級の専門書しかない状況は、困る人が多いだろうと。だったら大人がちゃんと勉強できる本をつくろうと思いました。そこを狙ったというより、“なかった”からつくっていこうと思ったんです。

 それに加えて学びが好きっていうのがありましたね。やっぱり勉強って、本来面白いことなんですよ。知らないことを知るっていうのはね。算数が好きな人、語学が好きな人、歴史が好きな人、それぞれが面白く読めて勉強になる本だったら喜ばれると思ったんです。

 まだ出版されていないジャンルに挑戦したいと思い、生涯学習のテキストに着手したんです。学びたい人のための本があるといいだろうなって。だからベレ出版では「いつも、学ぶ人の近くに」というコピーを掲げているんです。

最初の出版社から明日香出版社、そしてベレ出版と、長く出版に携わってきた中で、壁を感じたり特別に苦労したことなどはありましたか。

 会社員だから当然なのですが、最初の出版社ではいろいろな制約があって、窮屈さがありました。やりたいと思ったことをできないことが多かったんです。明日香出版社に移ったとき一時的に、だいぶ収入が減ったんですよ。二次創業当時の年収の順位がね、社内でナンバー2の私が3番目、社長が4番目だった。会社が軌道にのるまではそうしていたんです。じゃあなんで同じ仕事で収入が少ない方へいくのかというと、やりたいことを仲間と一緒にやろうと思ったわけです。それまではそれなりに収入はありましたから、そうじゃなかったら最初の出版社を辞めなかったですよ。明日香出版社ではそこまで窮屈さを感じていたわけではありませんが、本当の意味で自由になれたのはやっぱりベレ出版を創立してからかな。

ベレ出版は創立時から自由な社風なのですか。

 自由すぎたぐらいですね(笑)。自分だけじゃなく、社員にも好きなようにやらせていることが成果につながっていると思いますよ。私が自由にやりたかったから、みんなもそうしたいだろうと思ったし。代変わりしても社風はそのままですね。現社長もあえて引き継いでくれてるのでしょう。

那須ブックセンターについて

那須ブックセンターのお話をお聞かせください。出版不況の中、特に地方の書店は閉店が相次ぎ、書店のない地域が増えているのが現状です。そんな中、約3000万円もの私財を投じてこの書店を開業したと聞いたときは驚きました。

 読書は書店をウロウロして、目的の本を見つけるところから始まっていると思っているんです。本を選んで、手にとってみて、装丁に感動したり、ページをめくってワクワクしたり、読むまでにいろいろな情報が脳に届きます。これは紙活字の本ならではでしょう。情報の伝達だけでみればムダなことかもしれませんが、これこそが大切なんです。

 通販で本を買える時代かもしれませんが、それだと子供たちは自分で勝手に買えませんよね。眺めることもできない。たまたま見かけたこの本が面白そうだから買うという出会いがないのはかわいそうなことだと感じます。まずはそれをなんとかしたいと思ってこんな馬鹿なことを(笑)。

開業にあたっては場所やコスト、さらには開業後の見通しなど、さまざまな壁があったと思います。

 かなりの数の物件をあたりました。ランニングコストを考えたとき、抑えるべき最大の支出は家賃です。全国の市町村が家賃無料で建物を提供し、棚などの内装費用と初期在庫を負担してくれればなんとか地方の書店を維持できるのでは? と考えました。それがもし成功すれば、モデルケースとなり協力してくれる町や自治体が増えるのではないかと思ったんです。しかし、第一弾でそのやり方だと、許可や調整に時間がかかりすぎて、自分の年齢を考えると断念せざるをえませんでした。

 那須ブックセンターでは幸運にも格安で貸してくださる方と出会い、初期費用を私が出すことで今回の出店にこぎつけました。初期費用は寄付してしまって、ランニングコストだけは書店で賄ってもらえれば、経営を継続できますから。

そこまで大変な思いをして、多額の私財を投じて……。相当の熱意がなければできることではありません。

 そんな大それたことを考えて始めたわけではありません。ある意味、これは道楽なんですよ。自分の趣味に投資をしたようなものなんです。

 普段はあまりお金を使わなくてね、ケチって言われることがある。お金を持ってるんだからちょっとくらい贅沢すればいいじゃないってね。でもそうじゃない。例えば3万円もするような高級なお店で食事をしても緊張して楽しめないんですよ。むしろ700円のラーメンの方が美味しく感じる。5000円も出せば美味しいお店なんてよりどりみどりです。

 本以外で趣味もないし、家のローンもありません。節約してお金を使わなかったわけじゃなくて、贅沢な生活に興味がないだけなんですよ。

 世の中には車だったり、オーディオだったり、他にもいろいろな趣味に多額のお金を使う人がいますよ。僕にとってはそれがこの書店だったんです。

 だからそんなに重たく考える必要はなくて、ほんとうに自分のやりたいことにお金を使った結果なんですよね。自分にとって一番意味のあるお金の使い方をしたわけです。

 やっとこれでケチだと言われなくてすむかもしれない(笑)。

2017年10月にオープンしてからこれまでの手応えはどうですか。

 地域の皆さんに喜んでいただけているという手応えはあります。「那須ブックセンターを応援する仲間たち」という会を立ち上げてくださったり、すごく反応はあるんです。ただ、売上でいえばもう一歩でしょうね。でもこれは普通の商売をやっている感覚と違うので、とにかく書店が継続してくれればいいわけですから。儲けようと思ってやってるわけじゃないですからね。ランニングコストの部分を補えるようにはしたいし、できると思っています。

地域の皆さんが盛り上げてくれるのは嬉しいですね。

 びっくりしますよ。なんのメリットもないのに応援してくれるんですから。チラシを撒くのもみんなで手分けしてやってくれる。これを人を雇ってやったら大事ですよ。建物のオーナーも、ほんとはもっと条件のいい人が借りにきてたんですが、私たちの考えに共感していただき、こちらを優先してくださった。地域の方々には感謝しかありません。皆さんの期待になんとか応えていきたいですね。

日本の文化と教育を守りたい

本という文化の大切さ、書店の社会での役割についてどのようにお考えですか。

 藤原正彦さんがこうおっしゃっていました。「町の本屋こそ文化の拠点であり、インターネットでは、情報は得られても知識や教養は絶対に育たない」と。大いに共感します。

 人は考えることで覚えたり、感動することで情緒が養われます。情報を素通りさせず、自分のものとして定着させることにおいては、本はとても優れている媒体です。ものを見て考えながら読むという行為が大切ですから、本の役割はこれからもなくなることはないと思っています。

 書店の役割はそういう本との出会いの場であるとともに情報発信の場でもあると考えます。理想は世の中が見える書店であることです。

 大げさな言い方ですが、書店のない地域が続出している今、日本の文化と教育が危機的な状況といっても過言ではありません。那須ブックセンターの開業は、書店経営が不可能な状況を危惧する、同じ思いの仲間たちとできることを考えた結果でもあるのです。

これからの目標をお聞かせください。

 那須ブックセンターを軌道にのせて、それをモデルケースとすることで、書店のない全国の市町村が、書店を開業したいという動きになればいいなと思っています。そのときは私たちの経験、ノウハウの提供、人材の紹介などでお手伝いをさせていただきたいですね。そんな考えから「株式会社書店と本の文化を拡める会」を設立したのですから。

 こういう予算で、こういうやり方で書店経営ができているんですよっていう報告書も出したいですね。

 那須ブックセンターを成功モデルにして、あっちこっちで刺激を受けて、続いてくれる人たちが出てきてくれること、それが最大の目標ですね。

 それはもしかしたら大それた目標かもしれません。でも苦労がないと絶対に面白くないじゃないですか。100%勝つとわかっている将棋はしませんよ。だってつまらないもん(笑)。

Information

【ベレ出版】

〒162-0832 東京都新宿区岩戸町12 レベッカビル

TEL.03-5225-4790

https://www.beret.co.jp/

 

【那須ブックセンター】

〒325-0302 栃木県那須郡那須町高久丙2-39

TEL.0287-78-2000

フェイスブック https://www.facebook.com/nasubookcenter/

 

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