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紺碧の将
Interview Blog vol.20

なにげない風景の中にある美しい姿を撮りたい

カメラマン藤間久子さん

2017.09.25

『Japanist』の巻頭で「花のきもち」を連載している藤間久子さん。「花の表情が生き生きしている」と評判です。

 カメラマンになる経緯を含め、写真に対する思いを語ってもらいました。

自然の移り変わりに魅せられて。心おもむくままに……

写真に興味をもったきっかけは何ですか。

 昔から草花や自然の風景を写真に撮るのが好きだったんです。

 岡山県出身で、育った場所は自然以外ほとんど何もないようなところだったのですが、自然の移り変わりを見ているのが好きで、休日はよく一人でポラロイドカメラを持って近所に写真を撮りに出かけていました。

 変わらない風景なんですが、でも毎日違うんですよ。晴れたり曇ったり、雨が降ったりと、その日によって風景はぜんぜん違うので飽きることはありませんでした。

昔からカメラマンになりたかったのですか。

 いえ、ちがいます。最初は文章を書きたいと思っていたんですよ。

 本や雑誌を読むのが大好きで、よく詩や散文を書いていました。特に音楽雑誌や映画雑誌が好きで、好きなミュージシャンの音楽に、自分で歌詞をつけたり。一人遊びが好きでしたね(笑)。そのころは作詞家になるのが夢でした。

作詞家になるために上京したのですね。

 高校を卒業したら絶対に東京に行くと決めていました。とにかく田舎から外に出たくて。でも、両親は反対でした。幸いにも東京に叔母がいたので、叔母の説得もあって上京することができました。

 ジャーナリスト専門学校の文芸学科で2年間、書くことを学びました。だけど、専門学校ですからね。集まってくる人たちはみんな標準値が高く、プロ並みに上手い人もいました。自分の力量を知りました。自分は個性も技術もない。文章というよりも言葉がポツポツと浮かんでくる感じなので、それをつなげることに違和感を覚えたんです。最初のイメージから離れてしまうような気がして。

作詞家は無理だと?

 はい。それでも、クリエイティブな仕事はしたいと思っていましたから、専門学校を卒業したあとは出版物の制作会社で働きました。当時は今と違ってすべて手作業で、版下を作ったり黙々と写植を打ち込む作業が自分の性に合っていたみたいです。いわゆるDTPオペレーターですね。10年間働きました。

 ちょうど働き始めて6、7年ごろでしょうか。パソコンでのDTPが普及し始めて、世の中の方向がアナログからデジタルに変化し始めた頃に、自分には向かない気がしたのです。

 じゃあ自分は何ができるだろうと、方向性を見直しました。それが写真だったんです。

写真はそのころも好きだったのですか。

 写真だけは趣味でずっと続けていました。会社でも飲み会やパーティなんかで好き勝手に撮った写真が結構好評だったんですよ。自分が撮った写真を喜んでくれる人がいるというのはとても張り合いになりました。それで、会社を辞めるまでの2、3年間は、写真雑誌などを見て独学で写真のことを勉強しました。

師との出会い、そして旅立ち

会社を辞めた後はどうされたのですか。

 会社を辞めたら、2ヶ月くらい各地を回って自分の目を肥やそうと思っていたのですが、2週間ほどしたときに知人から会わせたい写真家がいると言われたのです。その知人には何度か写真を見せたことがあって、「あなたの写真は、私が知っている写真家の写真にどこか重なるところがある」と、以前から言われていて。

 その方の紹介でお会いしたのが、師匠の森日出夫先生です。

写真家の森日出夫さんですね。このインタビュー・ブログでもご紹介しています。

 驚いたことに、ちょうど森先生のアマノスタジオでもアルバイトを探していたらしく、結果的に先生のスタジオでお世話になることになりました。

 2ヶ月はゆっくりするつもりだったのが、知人から「2ヶ月たったらその話はもうないと思った方がいい、こんなチャンスはめったいにない」と言われたことで、決心しました。あのタイミングであんなチャンスが巡ってくるなんて思ってもいませんでしたから、先生と出会ったことは幸運だったと思います。2003年のことです。

 当時、スタッフは年下ばかりだったのですが、キャリア的には私が一番下っ端でしたから、最初の2、3年はついていくのに必死でしたね。

 でも、独り立ちしたいと思って写真の道へ進むことを決意したので、とにかく寝食を忘れるくらい、がむしゃらに働きました。

どういうカメラ指導がありましたか。

 具体的な技術のことで教えてもらったことはほとんどありません。自分で考えて覚えていくという感じです。それよりも撮影中の態度や姿勢、周囲への配慮などを厳しくしつけられましたね。

 それまでは自分で好きなように撮っていましたけれど、仕事になるとそうはいきません。自分がいいと思っても、相手が良いと思わなければ仕事になりませんから、そこをどう埋めていくかということを身につけていくことが大変でしたね。対面する人の人間性や魅力をどうやって引き出そうかと、いろいろ悩んだこともありますし、今も勉強中です。先生の厳しさの意味はこういうことだったんだなあと思います。

現在はフリーのカメラマンとして、個展を開催したり取材をしたりと、さまざまな場面で活躍されています。

 独立したのは5年前です。旅行が好きなので、依頼があればどこまででも行きますよ。でも、仕事で写真を撮るせいか、プライベートでは旅先でもあまりカメラは使わず、まず記憶に残したいと思っています。草花や自然の風景を撮るときは、自然とそれに合う言葉が浮かんできます。写真と言葉をセットにした作品もたくさんありますよ。

 どんな写真を撮るにしても、私は、常に光や空や風などを意識していたい。いつか各地を旅しながら、なにげない風景の中にある自然がおりなす芸術や強さに出会いたい。そしてそこに風や匂いまで感じられるような写真を撮りたいと思っています。

 

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