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紺碧の将
Interview Blog Vol.01

無駄と思うことは自分に対して失礼なこと

宇都宮大学国際学部 教員若林秀樹さん

2017.04.19

若林秀樹さん

自分の納得する仕事をずっと探していた24年間

外国人児童生徒の教育をテーマに活動をされていますが、なぜこのテーマを選んだのですか。

 学生時代やりたかったことに挫折して、“とりあえず”の気持ちで公立中学校の教員になりました。
 “とりあえず”なってしまった教員という立場に甘んじている自分自身にずっと反感を持ちながらもキャリアを重ねているうちに、日本にも外国人がたくさん住む時代になりました。学校で外国人児童生徒がおかれた現状を目の当たりにすることになったのです。
 「これだ」って思いました。マイノリティのために働くっていうのが、自分の性に合っていました。それに元々、職人気質なところがあって、色んな事をこなすよりひとつのことを突き詰める方が好きでしたから。何と言っても、まだ人がやっていない分野というのが魅力でしたね。専門家としてこの道に進みたいと思ってからは人一倍勉強しましたよ。
 外国人児童生徒教育とは、選んだというより出会ったのだと思います。

中学校の教員を辞めるときはどのような心境だったのですか。

 教員という仕事に疑問を感じながら、24年間も続けてしまった。でも、そのおかげで次の道を拓くタイミングが生まれた。大学から協力を求めていただき、ついては大学教員になる道が生まれた。でも、この道を行くには公務員という職をやめなければいけない。失う物も多いのだろうなと。
 ただ、やめることには抵抗は全くありませんでした。ここまで教員を続けてきて辞めるのか? と周りからはずいぶん言われましたけど(笑)。

そういう場が生まれなくてはいけないと思った

今でこそ外国人児童生徒の教育に関して、全国的に色々な団体が生まれて活動をしています。若林さんが関わりはじめた当時は、そういった動きは少なかったのですか。

 外国人児童生徒の教育って、「特別な先生たちがやっている特別な世界」と誤解されています。そういう先生たちが集まって考えを共有し、手を取り合ってこの問題に取り組んでいこうという場がなかった。だからそういう場が生まれなくてはいけないと思いました。
 このテーマに関わる教員、学校長や教育委員会の人たちの集まりの場は、当時私が大学で提案して実現した取り組みが、全国でも最先端だったと思います。

現場の教員は外国人児童生徒をはじめて担当すると、誰に相談したらよいか分からなくて自分で抱え込んでしまうと聞きます。

 今ですらそういった状況がありますからね、もちろん昔もそうでした。自分自身がそうでしたから。外国人の子どもや親たちと直面する立場になると、日本ってこのままで大丈夫なのだろうかという、それまでの教員とは違う、不思議な立場に身を置かされるんですよ。ただ漫然と目の前にあることをこなしているだけではいけないのだという危機感に苛まれます。だからこそ、そういった教員達が集まって話し合う場が必要なんです。外国人だけでなく、教育全体のために。

大学のプロジェクト、そこで活動した6年間は満足のいくものでしたか。

ワクワクしましたね。中学校で“実現させたいけど出来なかったこと”が、次々と実現できました。これは本当に楽しかった。また、大学での発信力は大きく自由度も高い。色々な方にも出会えたし、全国的にも活動の成果を見てもらえた。自分の発言の重さも実感することができました。

疑問や不満を持ちながらも24年間続けてきた教員の経験が、結果として今では自分のなかでかけがえのないものとして活きているわけですね。

 自分の生き方に不満を持ちながらの24年間というと、とても長いように聞こえます。でもそこには、無駄なものなど何もなかったと言い切れます。どんな職業であっても、自分の足跡を無駄と思うことは自分に対してとても失礼なことだと思います。教員時代にさまざまな経験をしました。苦い経験も含めて今の仕事に活かされているはずです。そう考えれば、24年間やったことは、全てが必要だったと言えるのです。

これからは、どんなことにチャレンジを考えていますか。

若林秀樹さん いま小中学校現場は、多言語化に困窮しています。ひとつの学校に、子どもの母語が10言語以上というのも珍しくない。もちろん、生活も授業も日本語を覚えてからと言うことになるのだけれど、初期指導や保護者対応を考えると母語対応は欠かせません。そこでいま、学校現場における多言語翻訳システムの開発を進めています。教員も子どもも保護者も、“言葉の壁があるから”と言う理由で立ち止まっている。でも、気持ちが通じてしまえば、 “言葉の壁”なんて本当は存在しないのです。だから、ちょっとでも言葉が通じることで、見えない壁を取り除き、つないであげたいんです。これはイタズラなんですよ。だって、「通じないから」と言っていたのに通じてしまったら、教員も子どもも保護者も、言い訳できず先に進まなきゃいけなくなるでしょ。外国人の教育なんて、何も特別じゃなくて当たり前のこと。これからの日本の社会にはそういう考えが必要で、先ずは学校からと。
 もちろん、これもまだ人がやっていないから。ワクワクですよ!

INFORMATION

 総務省が無料配信している外国人観光客向け音声翻訳アプリ“VoiceTra(ボイストラ)”を使った、学校教育現場での多言語翻訳実証実験をおこないます。これは省庁等の協力のもと、私が中心となり進めている事業で、5月の本格開始に向けて、アプリ開発を担当する情報通信研究機構(NICT)により、翻訳エンジン内の教育用語の強化もおこなわれました。この実験は、教育現場での多言語翻訳の有効性を実証すると共に、同様のソリューションが活用される土壌を開拓することが目的です。この実験の成果をもとに、近いうちの教育専用の翻訳システム構築を計画しています。
 VoiceTraについては下記URLを参照してください。

http://voicetra.nict.go.jp/

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