多樂スパイス

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紺碧の将

夕暮れショー

2011.01.30

 半年ほど前から朝の日課のひとつに加わったものがある。You Tube でNHKのラジオ体操第1・第2を見ながら体操をすること。映像を見ながら、つま先や手の指先まで体操のおねえさんと同じように動かすと、結構な運動になる。その後、軽いストレッチ、ダンベルでの側筋、腕立て伏せ70回など、いくつかのメニューをこなし、『枕草子』の一節を朗読してからパソコンに向かう。難易度Aの原稿は朝のうちに仕上げることにしている。集中力を必要とするからだ。

 夕暮れから夜の帳が降りる頃にかけての日課もある。これは都内にいるときだけだが、部屋の電気をすべて消し、窓の外の景色を見るのである。

 ベランダのすぐ目の前は新宿御苑の林。葉が落ちた今は、木々の向こうに高層ビル群が見え、独特の夕暮れショーが演じられるのである。マイルスやコルトレーンなど、往年のジャズを小さな音で流し、ゆったりとした気持ちで風景の移り変わりを見る。

 私は春も秋も好きだが、じつは夏も好きである。昨年の夏は猛暑で、多くの人がさんざんなことを言っていたが、私は「夏なのだからこれくらい暑いのは仕方ないのではないか」と思っていた。一方、今までは冬が苦手だったが、最近は冬も好きになった。葉が落ち、木の幹やら枝の姿がくっきりとわかるようになり、春や夏とはちがった趣を味わえるのである。特に夕暮れ、日が落ちるとともに木の輪郭が明瞭に見えてくる時は鳥肌ものである。

——夕日のさして山の端いと近うなりたるに……

 清少納言も夕日がさしてきた後、山の姿が近づいてくる様子をそう描いている。おそらく驚きながら表現したものと思う。ついでに言えば、その数節後、「まいて雁などの連ねたるがいと小さく見ゆるはいとをかし」とつないでいて、遠近法を用いた風景描写のセンスには脱帽するばかりである。

 話は戻るのだが、この夕暮れから夜にかけてのリラックスした時間帯にさまざまなアイデアが湧いてくる。冷静にチェックすれば、大半はろくでもない妄想かもしれない。でも、時々「これはいい!」と思えるようなアイデアが降ってくることがあるのである。植物たちが手を変え品を変え、さまざまなヒントを与えてくれるのだろう。地球上にヒエラルキーがあるとすれば、私は植物こそが最上位にいると考えている。人間や動物たちはその下だ。

 思えば不思議なもので、都内にいるときの方が自然に触れている気がする。もちろん、都心にいて自然を感じられる場所など希少にちがいないが、そういう場所に巡り会えて幸運だと思っている。

(110130 第226回 写真は部屋のベランダ越しの夕景)

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