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紺碧の将

神武天皇即位の地へ

2019.05.24

 元号が「令和」と変わった。天皇の崩御にともなうものではなく、生前退位(譲位)はじつに202年ぶりのことだという。列島は祝賀ムードに包まれ、天皇制や元号に対する意識が高まっているようだ。そういう意味でも、平成天皇がなさったことは画期的であり、たいへんなご英断であったと思う。

 平成天皇は第125代。これほどの長きにわたって皇位が継承されたと聞いては、あの傍若無人なトランプ大統領でも敬意を持たずにはいられないだろう。

 故渡部昇一氏は若かりし頃、ドイツへ留学した。ひどい人種差別に悩まされ、なんとかして見返してやりたいと思った。カラテ以外に、日本人が誇れるものはないだろうかと思案した結果、皇統のことを思いついた。

「ドイツなんかまだ生まれたばかりの国じゃないか。それに比べ、日本の天皇は124代も続いている。歴史の長さは比べものにならない。ザマーミロ」と言ったかどうかは知らないが、そういう意味のことを言ってから、霧が晴れるようにいじめがなくなったそうだ。ヨーロッパ人やアメリカ人は歴史が長い国に対する尊敬の念があるのかもしれない。

 

 初代・神武天皇は天照大神から数えて6代目にあたる。45歳のとき、東征を開始し、日向国(現宮崎県)を出る。その後、各地を平定し、畝傍山(うねびやま)の麓、橿原の地で即位する。紀元前660年。今から2679年前のこと。今年は令和元年であり(4月までは平成31年)、西暦2019年であり、皇紀2679年でもある。

 奈良といえば、「まほろば」である。「素晴らしいところ」という意味らしい。

 

 やまとは国のまほろば たたなづく あをかきやまこもれる やまとしうるはし

 

「古事記」に書かれている景行天皇の歌が印象的だ。

 奈良から近鉄で橿原神宮前駅へ。駅前のレンタサイクルショップで自転車を借りる。カメラが趣味らしく、数台の名機がガラスケースに陳列されている。水石も3つばかりあり、「水石ですね」と言うと、「水石というもの自体、わかってくれる人はめったにいない」と言って、嬉しそうに来歴を語っていた。

 自転車で5分ほど進むと橿原神宮に着いた。新緑の季節で晴れているというのに、人はまばらだ。南神門から神域に入る。

 美しく浄められた砂地の向こうに本殿が、その背後には畝傍山が見える。

「ここから始まり、現在に至っているのか……」

 2679年間、途切れることなく皇位継承がなされたことに驚きを禁じ得ない。と同時に、日本民族の得体の知れない底力を感じた。「継ぐ」ことに並々ならぬ価値を見出しているのだ。はじめ、チョロチョロとした水の流れがやがて大きな本流となり、今では日本人の心の拠り所になっている。どんな災害に遭っても、一心に祈る天皇の姿を見れば、哀しみは癒やされる。こんな高度なシステム(と言っていいのかな)はほかに例がない。

 橿原神宮をあとにして、神武天皇陵へ。

 神武天皇に手を合わせているとき、思った。神武天皇だけに手を合わせているのではなく、神武天皇に連なる日本という国に手を合わせているのだと。先人たちの労苦に対して、深い感謝の念を捧げた。

 

 ひとつ、憎まれ口を叩きたい。その日は橿原神宮前駅東口に宿をとったのだが、改札口を出るや、タバコの臭いが漂っている。ハテナと思っていると、理由がわかった。閑散としている駅前に2つも大きなパチンコ店があるのだ。由緒ある場所とはとうてい思えなかった。橿原神宮の静謐と東口の殺伐とした空気。あまりにもバランスを欠いた風景である。掃き清められた庭とゴチャゴチャした看板だらけの街、茶の湯とAKB48……、成熟している面と幼稚な面が渾然一体となった国、これが日本の特長ともいえる。

 

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(190524 第903回 写真上は橿原神宮、下は神武天皇陵)

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