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紺碧の将

天孫降臨の地へ

2019.03.11

 初めて宮崎県を訪れた。『古事記』などで天孫降臨の舞台となっている高千穂へ行くためである。 

 残念なことに、終日雨が降っていた。しかし、神域に降る雨はさらにそこを浄化するという。石に蒸した苔や深い森の樹々は、雨を受けていちだんと鮮やかさを増していた。

 

 『古事記』に書かれた天孫降臨について、簡単に紹介しよう。天照大神(あまてらすおおみかみ)は、弟・素戔嗚命(すさのおのみこと)の悪行に困り果て、岩の洞窟(天岩戸)に隠れたため、天界も地上界も真っ暗闇になってしまった。ずっと夜の状態が続いたことで邪神たちの声が世に満ち、さまざまな災難が起こった。困った八百万の神々は天安河原(あまのやすがわら=写真上)に集まり、その岩戸から天照大神を引き出す策を練る。

 そして、天宇受売命(あまのうずめのみこと)は桶を置いて足を踏み鳴らし、胸をさらけ出し、陰部まで露わにして踊った。あまりに滑稽な姿に八百万の神々は笑い転げた。

 すると天照大神は岩の扉を少し開き、こう尋ねた。

「暗闇だというのに、なぜ天宇受売命は踊り、ほかの神々も笑っているのか」

 すると天宇受売命は「あなた様よりも高貴な神様が現われました。それが嬉しくて、踊っているのです」と答えた。

 そして、ある神が太陽神の象徴である鏡を出して見せると、天照大神はますます不思議に思い、少しずつ岩戸から出て外の様子をうかがおうとした。そのとき近くに隠れていた神が天照大神の手を取って岩屋戸から引き出すや、注連縄(しめなわ)をかけ、「もうこのなかに戻ってはなりません」と言った。そのようにして天界も地上界も明るくなった。

 

 この神話には日本人の精神性が表れている。人を動かすには(この場合は神)腕づくや理屈で言いくるめるのではなく、楽しい思いをさせること。北風と太陽の話ではないが、人は前向きな人に惹かれ、聞く耳を持つ。

 性にまつわる大らかな表現も多い。いいかげんな神、悪さばかりをする神もいる。日本人の、度量の広い宗教心は、神話にも育まれたのではないか。

 ちなみに、天照大神の孫である瓊瓊杵命(ににぎのみこと)が、日向(ひゅうが)の高千穂に舞い降りたことが日本の始まりとされている。

 なぜ、日向(宮崎)に? という疑問が残っている。太陽に近い土地と思われたからか。はたまた気が集まっているところだからなのか。私にわかろうはずもない。しかし、はっきりわかるのは、天岩戸神社の神域に身をおいているとき、体中の細胞が活性化して、清浄な気が頭から爪先まで貫いたという実感を得たこと。

 たしかに「何か」がある、高千穂には。

(190311 第884回 写真上は天安河原、下はその前を通る清流)

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