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紺碧の将

丸くなった宮大工棟梁

2019.02.23

 久しぶりに鵤工舎(いかるがこうしゃ)を訪ね、宮大工棟梁小川三夫氏にお会いした。

 初めてお会いし、取材したのは2005年。今から14年前のこと。当時、小川さんは58歳、現場の棟梁として鋭気が漲っていた。取材を承諾してもらうまでの経緯は『fooga』に書いているが、とにかく眼光凄まじく、「これじゃヤクザもビビるわ」と思ったことを覚えている。その後、『fooga』のラストパーティー、二期倶楽部での講演・実演会、そして船村徹氏の告別式でお会いした。

「丸くなったなあ」

 印象をひとことで表せば、そうなる。あの時の、人を寄せ付けないオーラはすっかり抜け落ち、好々爺になっていた。終始笑顔で、〝人のいい田舎のおっちゃん〟になりきっていた。そういえば、小川氏の師で「法隆寺の鬼」と言われた西岡常一も道具を置いたあと、あっという間に好々爺になってしまったと聞いた。宮大工にとって大工道具は武士の刀のようなものなのだろう。真剣勝負をしていた人が、刀を置いて柔和になるという流れは、じつに魅力的だ。

 中国で、小川さんの人気が沸騰しているらしい。昨年発売された中国語版の『木のいのち木のこころ』3部作は中国でベストセラーの1位になっている(ちなみに、北野武氏が「小川三夫は日本の宝である」と推薦文を書いている)。北京大学での講演は、500人収容のホールに800人が詰めかけたという。

 その時のエピソードが面白い。講演後、学生から質問があった。

「小川さんの師匠は小川さん一人だけしか育てなかった。しかし、小川さんは弟子を100人以上育てた。ということは、小川さんはお金持ちなんですね」

「そこですかぁ!」とツッコミを入れたくなる。

 ちなみに小川さんが立ち上げた宮大工集団「鵤工舎」は30人くらいの〝社員〟がいる。小川さんの息子が代表となって率いているが、往時のままに全員寮生活。「住み込みで10年修業」が原則だ。

 若い中国人にとって、「弟子がたくさんいる=お金持ち」という図式ができあがっているのだ。住み込みの弟子を抱えるということは、お金が儲かるどころか、自腹での出費もかさみ、割はまったく合わないということを知った学生はどう思ったことだろう。とはいえ、小川さんの本がベストセラーになったり、講演会に大学生が大挙押しかけるということから判断すると、拝金主義が横行する中国においても、心ある人が増えているということか。

 帰り際、鉋屑(かんなくず)が欲しいと言ったら、快く応じてくれた。若い衆が全員出払って、静まり返っていた工場のシャッターを開け、おもむろに槍鉋(やりがんな)で板を削ってくれた。その板は、なんと法隆寺に使われていた古材で、1300年も前のものだった。

 削ると、得も言われぬ匂いが立ちぼった。まだ生きている!

 小川さんは古人や古材と対話しながら濃密な人生を送ってきたのだ。

(190224 第880回 写真上は槍鉋で木を削る小川三夫さん、下は鉋屑)

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