多樂スパイス

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紺碧の将

歌姫のギフト

2019.01.12

 リンダ・ロンシュタットが好きだ。ずっと好きだった。

 とびきり歌がうまいわけでも美人でもない。でも、「いいなあぁ」「うまいなぁ」としみじみ感じることが幾度もある。とびきりうまいわけじゃないのにうまいと感じるのは、いったいどういうわけか。それこそが、その人の才能(ギフト)なのだろう。

 そんなリンダから一枚のギフトが世に届けられた。とはいえ、コンピレーション・アルバムである。『Duets』というタイトルからもわかるように、いろいろな人とのデュエットを集めたものだ。お手軽と言えばお手軽。発売元の企画だろうが、あまり感心しない。

 しかし、これがとびきりいいのだ。大半はCDで持っていて、お馴染みの曲なのにあらためて聞き惚れてしまう。

 登場する〝相手方〟は、アン・サヴォイ、ドン・ヘンリー、J・D・サウザー、ドリー・パートン、ベット・ミドラー、ジェームズ・テイラー、エミルー・ハリス、アーロン・ネヴィルなど多彩だ。なんと、シナトラとも共演している。もちろん、これは声をオーバーダビングしたのだろう(セリーヌ・ディオンも同じ手法でシナトラと共演していた)。

 声の質がいい。時に甘酸っぱく、時に激しく、時に哀感たっぷりに、そして時にノスタルジックに……。リンダの声を聴いていると、体の奥底の〝凝り〟が少しずつ緩んでくるのがわかる。

 思えば、初めて彼女の曲を聴いたのは1976年頃。『Hasten Down The Wind』に収められていた「That’ll Be The Day」だった。当時はさほどいいとは思えなかった。ドン・ヘンリーやグレン・フライがリンダの尻を追いかけてデトロイトからロサンゼルスへ行き、そこでリンダのバックバンドとして結成したのがイーグルスの始まりだったということは聞いていたが、当時の私は男の声ばかり聴いていた。

 忘れもしない、リンダ・ロンシュタットとの邂逅を。87年に創業し、がむしゃらに仕事をし続けた私は、翌年の10月、ようやくまとまった休暇をとってアメリカへ旅立った。ニューオリンズのバーボンストリートのバーで酒を飲んでいる時だった。リンダの「Blue Bayou」が流れてきたのだ。一瞬にして鳥肌がたった。何度も聴いていた曲なのに、初めて聴いたかのように新鮮だった。おそらく、その場の乾いた空気にぴったり合っていたのだろう。

 帰国しても感動覚めやらず、当時発売されていたリンダのCDをすべて買った。

 リンダはいろいろやってみたい人で、ジャズに走ったり、メキシカンにハマったりと本筋から脱線することがあったが、私は律儀にもすべておつきあいした。どれもそこそこいいのだ。もちろん、リンダの真骨頂はカントリーフレイバー漂うロックやポップなのだが。

 7年ほど前だろうか。パーキンソン病のため活動を停止するという新聞の記事を見つけた。わずか数行の小さな記事だった。その時の哀しさは言葉に言い尽くせない。

 今、リンダはひっそりと〝余生〟を過ごしている。

 

※うーにゃんの明治神宮お礼参り 「感謝すれば、だれもが幸せ者」

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/1011

 

「美し人」

美の生活化―美しいものを人生のパートナーに

(190112 第871回)

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