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紺碧の将

革命的な「白」

2018.12.22

 ビートルズの『The Beatles』(通称:ホワイト・アルバム)の発売50周年を記念して、リミックス盤が発売された。リミックスとは、オーバー・ダビングされたいくつもの楽器の演奏や歌をバラバラにし、再び磨き直す作業をいう。

 じつは、私が最も好きなビートルズのアルバムは「ホワイト・アルバム」である。寄せ集め、まとまりがないなどという評価も多いが、私はずっと前からこの作品が大好きだった。ジョンとポールの才能は爆発的ともいえるほどに開花し、ジョージは周回遅れながらも懸命に食らいつき、ポールにドラミングの難を指摘されてへそを曲げたリンゴは一時、脱退するなど戦力外になりつつあった。4人の間に齟齬が生じ始めた時期に作られたものだ。それまでの〝全員集まって録音〟という方法以外に、各楽器を別々に録音し、オーバー・ダビングできるようになったことも結束力を弱める要因となった。

 しかし、「ホワイト・アルバム」は一見バラバラな構成に思えるが、そのじつ、3人(特にジョンとポールの)の個性は断崖絶壁の縁で絶妙なバランスを保っているかのようだ。「Mother Nature’s Son」や「Martha My Dear」のようなメロディアスな作品があるかと思えば「Ob-La-Di,Ob-La-Da」のようなゴキゲンなロックンロールもあ。「Piggies」のようなメッセージ性の強い作品もあれば「Revolution 9」のような実験的な作品もある。「Helter Skelter」や「Birthday」のような攻撃的な作品もあれば「Julia」のような叙情的なアコースティック作品もある。ジョージが招聘したエリック・クラプトンのように、〝外部の人〟が目立った「While My Guitar Gently Weeps」のような作品もある。

 かつてビートルズのエンジニアを担当していたジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンが今回のリミックスを担当している。ポールから「極限までやれ。限界を超えたら止めるから」とお墨付きをもらい、のびのびと仕事をやりきった。それによって、音の粒の際立ち、重低音の響き、各ヴォーカルや楽器のバランスなど、心憎いばかりにブラッシュサップされた。30曲を大音量で通して聴くと、このアルバムの魅力がまざまざと浮かび上がってくる。

 タイトルが秀逸だ。『The Beatles』。

 以上!

 他になにもない。バンド名だけ付して作品名をなしにしたのか、あるいはバンド名がそのまま作品名を兼ねているのか、その真意もわからない。

 ジャケットはタイトルをエンボス加工しただけで、真っ白。前年に発売された『Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band』はかなりサイケデリックなジャケットだったが、その正反対をいった。

 その真っ白いジャケットに、シリアル・ナンバーがナンバリングされている。このアイデアはリチャード・ハミルトンによるものらしいが、全世界で200万枚のみに付されると決められていたらしい。ちなみに、私が持っているレコードのナンバーは215875番。資料によれば、日本版の163,000〜263,000番は73年12月にプレスされている。ということは、私が14歳の時。一ケタ台のナンバーはたいへん貴重で、0000001番のレコードがオークションで1億円で取り引きされたという。

 ラザフォード・チャンという現代美術のアーティストは、「ホワイト・アルバム」を2000枚以上も並べるだけで作品を作っている。白いジャケットは経年変化により、さまざまな色がついている。それを並べると、自然と人間の共同創作になるというわけだ。ちなみに、当時のジョンとヨーコのイメージカラーは白で、白いスーツを来て、白塗りのロールスロイスに乗っていた。ベトナム戦争などで行き詰まっていた社会をリセットするという意味も込められていたのかもしれない。

 最も驚くべきは、わずか3、4年前は、マッシュルームカットにしたアイドルが一気に成熟したことである。風貌を見てもわかる。ジョンとジョージはもはや神のごとく佇まい。いったい、なにが彼らに劇的な成長をもたらしたのか。ヒントのひとつは、インドのリシケシュにあるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシェラムでの瞑想体験だろう。事実、「ホワイト・アルバム」に収められた曲の大半は、インドのリシケシュで書かれている。持って生まれた才能に加え、東洋思想との邂逅によって、彼らの稀な才能が一気に開花したのだろう。

 コード進行の複雑さ、アレンジのアイデアなど、音楽性の深まりも驚異的である。ジョンの「Happiness is a Warm Gun」はもともと別の3曲がひとつに融合されたものだが、ここで示した展開力・構成力には舌を巻くばかり。

 ポールはこのアルバムで、特別な才能をさらに印象づけた。最初の2曲はドラムを叩いているし、ピアノもお手の物。各曲のベースラインはどれも独創的だ。

 ところで、賛否両論ある本作品だが、玄人筋には評価が高い。

 2003年、アメリカの「ローリング・ストーン」誌が選出した「All Time Best 500」には10位に、13年、イギリスの「NME」誌が選出した「All Time Best 500」には9位にランクされている。この手のランキングがどの程度信憑性があるかはわからないが、少なくとも多くのロックバカが喧々諤々やりながら選んだものであり、一定の信頼性はあると思っている。

 白い衣装と思想をまとった革命的な作品。これからも聴き続け、唸らされることだろう。

 

「美し人」

美の生活化―美しいものを人生のパートナーに

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」連載中。第34話は「言葉は凶器にもなる」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(181222 第866回 写真上はリミックスされた「ホワイトアルバム」とそれまでの「ホワイトアルバム」、発売50周年を記念して刊行されたムック)

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