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紺碧の将

借景が最上の美術品

2009.12.11

 いつかは必ず行ってみたい美術館の筆頭が足立美術館であった。

 なにしろ主な収蔵品は私が好きな近代日本画であり、庭園は10年近く「日本一」と評価されている。京都にひしめく名庭園をさしおいて、ずっと日本最高という冠を獲得し続けている足立美術館から見る光景を我が眼底にしかと刻みつけたいと思っていたのだ。

 松江まで行ったからには、そのチャンスを逃す手はない。安来駅からバスに乗り、足立美術館へ向かった。

 

 その前に、バスの中でのひとコマ。乗客の大半はご年輩の方なのだが、中に頑固そうなおばあちゃんがいた。運転手の後ろに座るなり、「○○○○で降ろして」と伝える。その場所がわからない運転手は、それがどこにあるのかおばあちゃんに確認している。つまり、おばあちゃんは停留所ではないところを指定しているのだ。まるでタクシーであるかのように。

 何度かのやりとりの後、場所を理解した運転手はその近くでバスを停めた。すると、おばあちゃんは、「もうちょっと前へ行って」とためらいもなく指示する。そう言われた運転手は、言われるままにバスを発車させ、おばあちゃんご指定の場所でバスを停めたのであった。

 乗り合いバスでこういうことがなされていたのか!

 以前、九州へ行った時、乗り遅れてしまった若いカップルのために発車した電車を止め、二人が乗り込むのを待ったという光景に出くわしたが、このせちがらい現代でも、こういうことはあるのだ。東京でそんなことをしたら、運転手は即刻クビだろう。

 

 足立美術館の話であった。

 結論を先に書けば、「さすが!」と感嘆するばかりであった。建物の周囲はいずれも借景を生かし、非のうちどころのない庭園が連なっている。隙がなさすぎるのではないか、と思えるほどに。

 苔庭も枯山水も池庭も、すべてに細かい神経が行き届いているのがわかる。特筆すべきは、掛け軸や額絵に見立てた風景だ。軸や額の部分がくりぬかれていて、そこから外の風景が見える。つまり、絵では描けない、超リアルな風景画がそこにあるのだ。

 「庭はもっと自然でいいんじゃない?」という人もいるだろう。

 でも、自然の庭があってもいいし、人工美を極めた庭があってもいい。

 まぎれもなく、足立美術館は後者の代表格と言えるだろう。

 あらためて、この美術館を作った足立全康という人の功績を称えたい。と同時に、やはり横山大観はとんでもない画家だと痛感した。ダイナミックな着想、卓越した技術、そして国を想う気持ち……。どれをとっても高いレベルにあり、それらが調和している。近代日本画は、横山大観を抜きには語れない。

(091211 第133回)

 

 

 

 

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