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紺碧の将

突き抜けた日本人画家

2009.10.14

 先日、コルシカ島在住の画家・松井守男氏の取材をした。

 国内での知名度はまだあまりないが、フランスでは「最も有名な日本人」の一人といえるかもいれない。知名度なんてほとんど意味がないと思うが、けっこう日本人同胞は気にするので念のため。

 さて、松井画伯、取材の時は洋服姿だったが(写真参照)、ふだん制作の時や日常生活はすべて着物、下駄、褌(ふんどし)というから恐れ入る。まさにジャパニストである。

 松井氏は美大を卒業するや新天地を求めて渡仏した。その後は……、順風満帆であるはずがない。訪れた先はパリだ。私はパリが好きだが、あの傲慢やるかたない、パリに住むフランス人のえげつなさも知っているつもりである。フランス人とは不思議な人種で、とんでもなくドロドロした部分と美しい理解を同居させている稀有な民族である。

 松井氏も、相当イビラレたはず。彼らにとって、東洋人で優秀な人は許せないのだろう。もっとも、一度評価を定めると、とことん評価し続けるというのもフランス人の特徴と言える。日本人は、持ち上げるだけ持ち上げておいて、突如梯子をはずすということを平気でする。

 だからなのか、コルシカの海や空のごとく天真爛漫そうに見える表情の裏側には、辛酸を舐めた徴が隠されていると思った。モーツァルトの長調に潜む陰影といえばわかりやすいだろうか。

 だって、だって、明るすぎるよ松井画伯。太陽はいつも照らしてくれるわけではない。

 

 取材が始まると、いきなり私の細胞は松井守男の波動を受け入れたみたいだった。しょせん人間とて動物、波長が合うかどうかは重要な問題である。私はこういってはなんだが、嫌いな人とうまく話を合わせる術を持たないし、持つ意味もないと思っている(だから絶対、政治家にはなれないと自信をもっている)。

 この欄でも書いたが、私はストリートファイターが好きで、アカデミックな人はどうにも苦手だ。だいたい実学を持たない人は、喋っていて退屈だ。その点、現場で自分流を貫いて大成した人は魅力的である。

 松井守男さん、いいなあ。

 なにがいいかって? ひとつだけ、秘訣を明かそうか。

 愛猫の名前が「モン猫」だよ。モンはフランス語で「私の」。猫は日本語で「猫」。そのまんまじゃないかニャー。いいセンスしてます。

 最初、それを聞いたとき、冗談ではないかと思ったが、ふざけてつけた名前ではないことはすぐにわかった。松井守男は遠く母国を離れて、モン猫にさまざまなことを重ね合わせているにちがいない。

 それに、そもそも猫好きに悪人はいない(と勝手に思っている)。

※松井守男氏の取材記事は『Japanist』第4号にて。

(091014 第122回)

 

 

 

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