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紺碧の将

紙に命を吹き込む〝God Hand〟

2018.02.26

 紙造形作家・小林和史氏を取材した。『Japanist』第37号の美術のコーナーで紹介するためである。もしかすると、本人は「紙造形作家」という肩書を由としないかもしれない。名刺には「アートディレクター/デザイナー」とあるし、個展の案内状には「美術家」とある。しかし、私はまごうかたなき「紙造形作家」であると思っている。

 小林さんは、幼い頃から小児喘息に悩まされた。発作が起きると、鎮まるまで苦界に幽閉された。だから、家族旅行など、楽しいイベントもほとんどなかった。

 なぜ、小林さんは小児喘息を患ったのか。やはり、そこには〝大きな意味〟があったのだろう。紙を切って昆虫を造るという行為に駆り立てるため――。「今、思えば」であるし、他人の勝手な意味付けかもしれない。でも、そう捉えるしかないほど、彼は絶妙のタイミングでハサミを握る。

 3歳の時だ。先の鋭いハサミを巧妙に用い、平たい紙を虫の形にするという喜びを知った。触媒となったのは、父親が世界を回って集めた昆虫の標本だった。

 紙で虫を造っている時だけ発作を忘れた。無我夢中になっているうち、〝あっちの世界〟へ行ったのだろう。潜在意識下の祈りが通じたのかもしれない。

 幼い小林さんは、みるみる腕をあげていった。8歳の時の作品が残っている。それが右上の写真。驚くべき精緻さである。ルーペで脚の先を見ると、あまりの細かさに舌を巻く。

 やがて小林さんの関心は、衣装、空間、映像など多方面へと広がっていく。賞金狙いで応募した作品が認められ、ピエール・カルダンの賞を受け、パリに1年間留学。その後、イッセイ・ミヤケのデザイナーとして活躍する。空間デザイナーとしても才能を発揮し、代官山蔦屋書店T-SITEなど、多くの物件を手がける。

「虫は地球そのもの。虫への共感があるかどうかは、ある種の結界でもあると思う」

 つまり、嫌われ者でマイノリティーな存在の虫に共感できるかどうかで、人間の感性を大別できるのではないかというのだ。

 私はずっと、植物が地球そのものだと思ってきた。地球と直接つながっているのは、植物だけ。行動できない彼らが、行動できるあらゆる生物を生かしてくれる、と。

 ただし、植物だけの〝単独行動〟ではないということがわかった。虫と植物は密接な関係を保ち、この地球を形作っているのだ。それらの作業は、人間の目に見えにくい。彼らはひっそりと、誰に気づかれなくても、きわめて重要な役割を果たしてくれている。

 

 小林さんの思いや作品を紹介する12ページの記事は、次号(4月25日発売)にて。

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」、連載中。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(180226 第792回 写真上は、8歳の時の作品。下は、本物としか思えないクモの作品)

 

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