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ココロバエ
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信州のバカボン、ワープす

2009.04.17

 誕生日の午後、出勤したらサクラ色のバラが私を迎えてくれたことは前回書いた。それだけでもサプライズだったが、その日の夜、とんでもない(あってはならない)サプライズが待ち受けているとは想像だにしなかった。

 仕掛け人は、かの信州に住む炭焼き師で、名は「原伸“スケ”」という。今回の事件は精緻な「隠密行動」によって巧妙に仕掛けられた。

 ある人から誕生日のお祝いをしたいと嬉しい申し出があり、オトワレストランで会食することになった。

 ここ数ヶ月のハードスケジュールの影響で、フレンチのフルコースを食べる機会が減っていたが、やはりフレンチはいい。味もさることながら、フレンチの佇まいが好きなのだ。このことは和食についても言える。ちなみに中華の佇まいは好きではない。味も嫌いではないが惹かれることもない。そもそもテーブルを回しながら少しずつ分けるというスタイルが私の性に合っていない。そこに座っている人同志がうち解けるための方法だと聞かされれば納得するが、要するに血族以外誰をも信用しない中国人が考案した食のスタイルだろう? 中国人のグループは例外なく大声だが、あれとて小声で喋ってると誰かの悪口を言っていると誤解されてしまうために大声を出しているのだと中国人に説明されたことがある。私は騒々しいのが好きではない。バラエティ番組、合コン、渋谷……どれもダメ。でも、一部のロックは好きだけどね。

 さて、メインの肉料理を食べ終え、そろそろデセールの出番かと思った矢先のことだった。ギャルソンがつかつかと寄ってきて、「高久様にシャンパンのお届け物があります」と言うのだ。

「届けもの? おかしいな。ここで食事をするって誰にも言っていないのに……」

 いろいろと心当たりの顔を思い浮かべるものの、どうも腑に落ちない。

 いったい誰なのだ? 最近会った人? もしかして裏千家の千玄室大宗匠? いや、それは絶対にありえない! では、山田宏杉並区長か? いや、それほど暇なはずはあるまい。あの方は大命を帯びているのだ。

 では、資生堂の福原義春名誉会長? まさか! どう考えてもそういうことをしそうにない。では、日本画家の那波多目功一画伯? イメージするだけで楽しい。が、それも絶対にありえない。では、政治評論家の佐々淳行さん? まあ、それも無理だろうな。

 そのようにして大物ばかり頭に浮かべるものの、すべてただの妄想に終わる(しかし、楽しい)。

 やがて、斜め後ろ45度の角度から一人のシェフがやってくるのが視界に入った。コックコートが目に飛び込んできたのだ。そのコックコートに違和感を感じると同時に、「信州のバカボンからシャンパンのお届け物です」と聞こえる。

 耳に馴染んだ声だ。すかさず、大げさにリボンを巻いたシャンパンを私の目の前に差し出してくれた。瞬間、オトワレストランとコックコートと「バカボン」という言葉がまったくつながらない。これはただごとではない、そう思いつつ視線を上げると、なんと「信州のバカボン」の誉れ高い原伸介が立っているではないか。しかも、よく見ると和服の上にコックコートを着ていて着膨れ状態である。視線を降ろすと、コックコートの裾の下に雪駄が見える。

 前日の夜、伸介はノブ君から東京に来てくれないかと誘われていたが、窯だしがあるから山を降りられないと答えていた。それだけに驚きだった。

 聞けば、その日の朝、「ある情報の漏洩により」私の行動をキャッチ。すぐさま特急「あずさ」に乗り、松本から新宿へ。そこで乗り換え、宇都宮に来たと言う。所要時間は5時間超。

「そのコックコートは音羽シェフのですか?」私は訊ねた。

 彼の答えによれば、途中電車の中で音羽シェフに電話をし、かくかくしかじかの理由なのでコックコートを貸していただきたいと頼んだという。

 プロの料理人がぬかずく音羽シェフにいきなり電話して、会ったこともないのにいきなりコックコートを貸してほしいと言う度胸はダテに「バカボン炭焼き」の称号を戴いてはいないようだ。

 ただ、これは音羽シェフだったから良かったものの、普通のシェフだったら「おぬし、フランス料理をナメとんのか!」と怒鳴られてしまっただろう。

 くれぐれも良い子の皆さんは真似をしないでくださいね。でも、高久は心から楽しませていただきました。

(090417 第93回 写真はコックコート姿の原伸介)

 

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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