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紺碧の将

「南アルプスの貴公子」に登る

2016.08.13

甲斐駒ヶ岳 猛暑、猛暑と騒ぎ立てるので気持ちの方が先に暑くなってしまうこの季節だが、考えようによっては砂漠の国の暑さと比べたらなんてことはない。しかも、夏は短い。

 毎年、「これぞ、夏!」と実感するのが、恒例の登山である。槍ヶ岳に始まり、北穂高岳、立山、仙丈ヶ岳、北岳、赤岳、蝶ヶ岳、常念岳、奥穂高岳、鳥海山、日光白根山など多くの高峰に登ってきたが、今回選んだのは南アルプスの甲斐駒ヶ岳。「日本百名山」を選定した深田久弥はこの山を「ベスト10にはずせない」と書いているのを読んで、登りたいと思ったのである。
 「南アルプスの女王」と呼ばれる仙丈ヶ岳に対し、こちらは「南アルプスの貴公子」。その名のとおり、山容は重厚で安定感があり、まさに横綱の風格だ。頂上付近に小屋はなく、途中で泊まることはできないため、登ったら下りきる必要がある。
 写真右は、8合目にあたる駒津峰からの眺めだが、ここからが一苦労だった。山の頂上に向かってアップダウンを繰り返した後、分岐点にあたる。正面は直登ルート、右へ行けば迂回ルート。
 私はそこが重要な分岐点だということに気づかなかった。前を歩いていたどこかのオジサンの後を無意識についていってしまったのだ。
 急に険しい岩が立ちはだかり、アクロバティックな姿勢で乗り越えた時、変な予感が走った。

 「ほんとうにこのルートでいいのだろうか?」
 オジサンもそう思ったようだ。もうすぐ分岐点があるはずだと言う。しかし、分岐点はすでに過ぎている。
 もう引くに引けない。上りはかろうじて岩を越えられるものの、下るには相当危険だ。そのまま進むしかないという事態になった。
甲斐駒ヶ岳山頂にて その後も難所が続き、大きな岩にしがみつき、足がプラプラした状態で岩をよじ登るという場面もあった。右手を見ると、迂回ルートを歩く大勢の人の姿があった。
 進めば、いつかは頂きに着く。これが登山の掟でもある。白っぽい岩の群れを縫って、どうにか頂上にたどり着くことができた。
 標高2,967メートル。ほぼ3,000メートルだ。日頃、運動を続けているおかげか、体力の消耗はあまり感じない。唯一の難点は私の足の形にある。足に詳しい知人によれば、私の足はイタリア人の形だとか。親指が長く、小指までの線が鋭角になっている。いわゆる「サリーちゃん足」の正反対。そのためか、親指の先が靴にぶつかり、どうしても下る時に痛みが生じる。しかし、それも終わってみれば、懐かしい痛みとなる。
 昨年同様、今回も快晴に恵まれ、神々が棲む異界の景色を存分に楽しむことができた。

 

 自宅に戻ってさっそく新宿御苑を散歩したのだが、あの爽快感もどこへやら、愕然とした。8割以上の人がスマホに見入りながら歩いているのだ。ゾンビの集団を見るようで、ゾーッとした。ポケモンを捜しているのだろうか。
 周りには「神人合作」とも言える素晴らしい巨木がたくさんある。そういうものに目もくれず、一様にうつむいて歩いている姿は、相当に不気味である。
 人間をダメにするのは簡単だ。魂を抜くのも洗脳するのも簡単だ。
 私は以前から任天堂は世の中を悪くする会社だと思っているが、それが確信に変わっている。
 もっとも、そういう会社にいとも簡単に手なずけられてしまう人が問題なのだろう。下界に降りると、複雑な心境になる。かといって山暮らしはできそうにないし……。自分とは関係がないと割り切るしかないのか。
 (160813 第657回 写真上は駒津峰から見る甲斐駒ヶ岳。下は甲斐駒ヶ岳頂上に立つ筆者)

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