多樂スパイス

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紺碧の将

モノとの共生

2014.07.14

スパイダー後ろ姿 「官能的」「触ると火傷するような」「じゃじゃ馬」……、イタリア車に付される形容は、女性に見立てたものが多い。それも淑やかな女性ではなく、情熱的な……。

 長年、イタリア車を乗り継いできた私だが、なるほどと共感できる。妙にイロっぽいインテリアとか、かん高いエンジン音とか、肉感的なボディとか、グラマラスなヒップとか、やはりどう見ても女の人だ。
 愛車自慢ではない。むしろ、懺悔に近い。惚れ合ってイイ関係になったのに、今はなかなか乗ってあげられない。たいがい宇都宮の会社に置きっぱなしにしているので、月に何度か出社した時に宇都宮の自宅を往復する程度だ。先日、あまりにご無沙汰してしまい、顔色が冴えなかった(ように見えた)ので、日光のいろは坂へ連れ出した。「大事は小事より起こる」。芽は小さいうちに摘んでおかないと。結果、じつに嬉しそうな表情をしてくれた(ように思える)。
 今どき、2人乗りのマニュアルはないだろう。我が家は3人家族だが、全員乗ることができない(笑)。荷物もほとんど載せられない。視界も悪い。雨が降った日は最悪で、ボディの構造上、ドアを開けると雨が座席に入ってくる。ドアが大きいので、狭い所に駐車する時、厄介だ。
 しかし、そういった諸々は想定内である。気にしなければいい。なにより、天気のいい日に幌を開け、風と一体になって走るだけで、そういう難儀な面はすっかり忘れられる。
 価値観の問題だと思う。運転しやすく、合理的な方がいいのか、ただただ美しく、楽しい方がいいのか。私は、ほとんどの場合、後者を選んで生きてきた。これからもそうだろう。
スパイダー室内 では、イタリア車ならなんでもいいのかといえば、そうではない。フェラーリやマゼラーティにはあまりそそられない。むしろポルシェが近いかもしれないが、やはりマニッシュというか、「女」ではない。
 イタ車は壊れるとよく聞くが、私が乗ってきたイタ車に限ってそんなことはない。今のスパイダーは購入してから7年過ぎたが、ほとんど故障はない。その前に乗っていたアルファロメオ156は現在、友人が乗っているが、走行距離17万キロ超にして元気バリバリである。
 モノにとらわれない、執着しないというのは、大事なことだと思う。しかし、「とらわれない」ということにとらわれ過ぎるのも良くないと思う。生きていれば、さまざまなモノに出会う。その中には、まさしく「邂逅」と呼ぶにふさわしいモノもある。それらを大切にすることも、充実した日々をおくるうえで重要なことではないか。モノに心を込めれば、モノも応えてくれる。
 しかし、残念ながら、冒頭にも書いたように、私はスパイダーをほったらかしにしている。時々、手放した方がお互いのためにいいのかなとも思ったりする。維持費もかかるし、なにより「出番」がないのは相手の尊厳を傷つけることにもなる。プロスポーツ選手に出番がないのと同じように。
 と考えているうちに、2015年暮れに発表予定の新型スパイダーの画像を入手した。これを見て、再び胸が高鳴った。私の車は呆れているだろうな。
(140714 第513回 写真上は日光いろは坂でのアルファスパイダー。もはや自動車という枠を超えて、美術工芸品の領域。エロイ!)

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