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紺碧の将

心のふるさとを想起させる本

2013.11.22

小さなともしび わが社(株式会社コンパス・ポイント)の出版事業部であるフーガブックスから『小さなともしび』を刊行した。著者は、鈴木由紀さん。『Japanist』第7号から18号に掲載した「おばあちゃんの教え」を一冊にまとめたものである。

 その名の通り、おばあちゃんから聞いた話などを題材に、古から伝わる人間の本質や生き方の知恵を鈴木さん流の情緒豊かな文章で綴ったもの。『Japanist』に連載当時も小淵陽童氏の作品を挿絵に使っていたが、それらをそのまま使用したためオールカラー版になった。表紙画は、小淵氏の内弟子だった矢崎悠美氏によるもの。

 鈴木さんはさまざまな才能を持った方で、刻苦勉励の末に獲得したという雰囲気を微塵も感じさせない。もちろん、それなりの努力を重ねた結果なのだろうが、人がひとつの表現手段を得るための道は同一ではないと思う。

 話はいきおい世界的なレベルになってしまうが、モーツァルトの直筆原稿にはほとんど修正の跡がない。弦楽四重奏曲のいくつかに見られる程度だ。自分の頭の中に浮かんだ曲想が明確で、それを五線譜に移す際にも迷いがなかったからだろう。ひとつのオペラの中には、それこそ数十ものアイデアがちりばめられているが、シューベルト(だったかな?)は、「どれひとつとっても大きく膨らませれば交響曲や協奏曲に展開できるもの。それをなんともったいないことをする」と歯ぎしりしていたとか……。いずれにしても、眉間にしわ寄せながら書いている人にとっては、モーツァルトはにっくき輩だったろう。

 

 鈴木さんの文章にも、迷いが見られない。

 2007年、当時発行していた『fooga』の記事を読んで感動したと手紙をいただいた後、食事をする機会があった。私は、「そんなに感動したのであれば、自分でも文章を書いてみたら?」と言った。ほんの軽い気持ちで。

 それから一週間かそこらでひとつの文章が届けられた。それが『祖母からの贈りもの』という作品で、一読するなり、すっかり引き込まれた。誤字はもちろん、文章の破綻もない。話の展開もスムーズで、そこにはさまざまな教訓さえさりげなく盛り込まれていた。

 「ほんとうに初めて文章を書いたの?」

 そう訊くと、そうです、と言う。

 「へぇ〜、もう完成していますよ」と唸るしかなかった。こんなに簡単に文章をものにしていいのかな、とさえ思った。

 その『祖母からの贈りもの』を皮切りに『fooga』で連載を始め、それらをまとめたものを『ちいさな祈り』という題で弊社より刊行した。よって、鈴木さんにとっては2冊目のエッセイ集である。

 今回の刊行にあたり、私の恩師である田口佳史先生から寄せ書きをいただいた。田口先生は、良寛のエピソードを交えながらこのエッセイ集の魅力をひもとき、「鎮守の森の中でポツリポツリと語る祖霊の言葉を、ひとことひとこと聴いているような気持ちになります」と印象的な言葉で表現されている。

 本書は、本サイトからもご注文いただけます。

 (131122 第468回)

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