多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > たった今、この瞬間を生きる

たった今、この瞬間を生きる

2013.05.13

而今 次号『Japanist』の「美術散歩」では、書家・酒井真沙氏をご紹介する。以前、発行していた『fooga』2003年2月号の特集記事でも紹介したことがあるが、ほぼ光を失いながら、いつも前向きに独自の作品を書き続けている方である。

 酒井氏の最近の動向については、昨年のブログでも書いた通りだ。そのときのタイトルは、「虚栄心から解放されるということ」。

https://www.compass-point.jp/blog/page/5/

 過日、栃木県大田原市のご自宅へお伺いし、最近の作品をひとつ購入させていただきたいとお願いした。最近の作品の円熟ぶりは、ナマハンカな言葉では言い尽くせない。ぜひ、生活空間に置いて共に暮らしたいと思ったのだ。

 酒井氏は「遺作展のときは貸し出してくださいね」と笑いながら快諾してくださった。どれでも好きなものを、ということだったが、迷いに迷って『而今』にした。ヨコ1800mm、そこそこの大きさである。

 而今(※にこんと読む)とは、禅の言葉である。たった今を大切にして生きる、とでも言おうか。

 人はえてして過去や未来に執着をもつ。過ぎ去ってしまったことにあれこれ後悔したり、まだ先のことなのに要らぬ心配をしたり……。人はなんと無意味な妄念に煩わされているのだろう。

 結局、人を含め、あらゆる生き物は、「たった今」以外を生きることはできない。こうしている瞬間もすぐに過去のものとなり、「今」は次々と現れるが、また過去のものになる。その連続性の中で、生きているのは「今、この瞬間」のみ。

 酒井氏の『而今』の、作為のない無邪気さを見よ。今年米寿とは思えないほど、天真爛漫で恬淡としている。ほとんど視力を失っているゆえ、ご自分で書いた作品を見ることはできないというが、心の眼で見ているにちがいない。

 どうしたら、こういう作品を生み出せる境地になれるのか。もし、そういう質問をしたら、おそらく酒井氏は「ハハハハハ」と呵々大笑するだけだろう。

(130513 第423回 写真は酒井真沙氏作『而今』)

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

多樂塾

SPONSORED LINK

ココロバエ

Topics

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ