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紺碧の将

感性とはこういうものをいう

2012.12.20

 『Japanist』に「町工場からのメッセージ」と題して、菅野敬一氏のインタビュー記事を連載しているが、その菅野さん、世界のあちこちで注目を浴びている。以前から、世界の目利きを魅了していたが、ここにきてさらに顕著になってきた。厚く交誼を結んでいる者として、また日本人同胞として、ただただ嬉しい限りだ。

 私も菅野さんの作品を愛する一人だが、何に惹かれているのか、しばしば考えることがある。なぜなんだろう、と。

 と思っていたら、先日の取材で明らかになった。それは、かつて菅野さんが師事していた渓流釣りの師匠の言葉にヒントがあった。

 「死ぬまでに自分が好きなモノをつくりたい」と思ってつくり始めたのが現在のエアロコンセプトの原点だということは今までに紹介した通りだが、当時、そのカバンを見て、その師匠がこう言ったという。

 「このカバンには森や川が見えるし、土の匂いがする」

 菅野さんはそれがどういう意味なのか聞きたいと思ったが、「聞いちゃおしまいかな」と、今でもその真意は聞いていないという。

 エアロコンセプトの基本は、等間隔に穴の空いたジュラルミンの躯体とイタリア製の革。木や竹や繊維など、自然素材を使った伝統的な日本の工芸と一線を画しているが、そこに森や川を見、土の匂いを感じるというのが面白い。まさに慧眼というものだ。

 期せずして、その意味がわかったような気にさせられた体験があった。

 先日の夕方、いつものように部屋の照明を消し、刻々と薄墨色に変わっていく外の景色を眺めていたとき、ふと思うところあってパソコンを開け、用が済んだ後、元の椅子に腰を下ろしたときだった。パソコンの光がエアロコンセプトのカバンに反射して、予期せぬ絵を映し出していたのだ。それが右上の写真。夕方、太陽の日を反射した雲がこのようにたなびいていることがあるが、まさにそんな光景だった。

 私はゾクゾクとし、慌ててカメラのシャッターを切った。

 この微妙な光の反射は、細かい傷(スクラッチ)によって生み出されている。デザインパターンをプレスするような手法では、けっして起こりえない。

 それにしても、菅野さんはどのようにして、こんなに細かい傷を流れるように刻むことができるのだろう。まさに、一本一本が入魂の線になっている。これじゃあ、手間もかかるわい。一期一会とは、まさしくこのことだろう。

 ひとつひとつに魂を入れ、つくりあげた作品が、世界の富裕層の間でひっぱりだこというのも頷けるし、これはいよいよ供給不足になるなと要らぬ心配までしてしまう。菅野さんは、オーダーがたくさんあったからといって、ホイホイとつくってしまうような人じゃないからね。

 私は最近、歌を書き始めたのだが、菅野さんをイメージして書いたものがある。

 

 頬つたう涙の筋のかなしみの 肥やしとやせん花も実もなる

 (大企業の横暴によって理不尽な思いをし、いくたび哀しみの涙を流したか知れないが、今ではそれすらも肥やしとなって見事な花や実になっている)

 お粗末様でした。

 

 モノづくりの諸君、第二第三の菅野敬一を目指そう!

(121220 第388回 写真はエアロコンセプトのカバン「スーパートランスポーター」)

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