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紺碧の将

会社の理想型

2012.06.05

 次号『Japanist』の巻頭対談取材のために、長野県伊那市にある伊那食品工業株式会社を訪れた。今回の対談の組み合わせは、同社の創業者である塚越寛会長と中田宏氏である。

 塚越氏の著書、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)など、いくつかを読んでいたし、同社の評判はあちこちから聞かされていたので、期待はいやがおうにも膨れあがった。また、本質的かつ王道でありながら他に類例のない経営法に興味をおぼえていた。さらに、塚越氏の理念、哲学を体現したかのような「かんてんぱぱガーデン」にも大きな関心を抱いていた。

 実際に訪れ、ご本人に会い、会社の敷地を歩いてみて思ったことは、「百聞は一見にしかず」。やはり、自分の目で見、生身の人間と接しなければ大切なことはわからない。

 伊那食品工業は今、年間の新規採用人数約20人に対し、2,000人もの応募者があるというが、それも納得できる。人は、人間的に働ける会社で働きたいのだ。

 同社は世のグローバルスタンダードと称した経営法とは一線を画す。急成長は望まない、毎年、少しずつ着実に成長することが大切だという信念のもと、48年連続増収増益を達成。なぜ、48年で途切れたかといえば、かんてんブームによって売上高が急増し、ブームが去った後の反動減によるというもの。そもそも、塚越氏はブームを警戒していたというが、世の多くはブームにのることばかり考えている。まったく正反対の価値観なのだ。

 社員の給与体系は能力主義ではなく年功序列、安いからといって業者をむやみに変えることはしない、社員が安全に働ける環境づくりが最優先、地域社会に迷惑をかけない、かんてんという商品の可能性をとことん追求する、上場は自らの経営観を実行するうえで妨げになると判断とする等、世の経営者が参考にすべきことは山ほどある。

 さらに驚くべきことは、広大な敷地が「かんてんぱぱガーデン」と名付けられ、植物公園さながらにさまざまな植物が植えられ、整えられ、清掃されている。しかも、清掃会社に委託しているのではなく、すべての社員が率先して清掃しているという。

 かんてんぱぱガーデンはすべての来訪者に開放されており、地域の人たちは言うに及ばず、遠くから観光バスに乗ってやってくる。私が訪れた日も、はとバスなど数台の観光バスが駐車場に停められていた。そこに訪れる人の数は、年間数十万人というから、さらに驚きである。

 また、かんてんぱぱガーデンは、広域農場の両側に広がっているが、その2つを結ぶ歩道橋まで自社で建設してしまっている。

 塚越氏の現場で培った人生哲学は、次号の『Japanist』にて。

 ガーデン内に、「野村陽子植物細密画館」という建物がある。詳しくは、次回にて。

http://www.kantenpp.co.jp/

(120605 第345回 写真は伊那食品工業=かんてんぱぱガーデン。奥に見えるは、そば処 栃の木)

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