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紺碧の将

いったい誰が創造したの科

2012.02.06

 「わからねえ、どうにもわからねぇ」

 黒澤明の名作『羅生門』の冒頭。激しく雨が降り続けるなか、羅生門で雨宿りをしている男が独り言をつぶやく。ある殺人事件に際して証言した3人の供述内容がなるで食い違っており、どうにも「人間の本性がわからねぇ」と。

 私も花をつぶさに眺めるたび、心のなかで、「わからねえ、どうにもわからねぇ」とつぶやいている。いったい、誰がこんなに精緻で、しかも筆舌に尽くしがたい美を創造したのか。色、形、バランスなど、どれをとっても美の極致と言っていい。だから、私は植物の大半を「いったい誰が創造したの科」と分類している(もちろん、レベルの低いギャグである)。

 

 「わからねぇ」といえば、私たちが住む、この宇宙がわからない。地球は約10万キロというスピードで太陽の周りを回り、約1000キロのスピードで自転している。銀河系には惑星が約60兆個あると言われているが、それらはある秩序のもとに動き回っている。そんな途方もない秩序をいったい誰が創造したのか。

 一方、目をミクロワールドに転じてみよう。ヒトのゲノム(ヒトを形づくるために必要な遺伝子情報全体)の暗号文字(A、T,C,G)の総数は、約32億個と言われる。この情報量は、1ページ1,000字で1,000ページある本にして約3,200冊分に相当する。

 そして、成人は約60兆の細胞から成り立っている。その一つひとつの細胞の核にあるDNAの重さはわずか1グラムの2,000億分の1、その幅は1ミリメートルの50万分の1にすぎない。さらにDNAの大きさは10万倍くらいまで拡大しないと肉眼で見えないほど小さいのに、それを伸ばすと、1.8メートルもの長さになるという。

 いったい、誰がそれらを創ったのかと考え始めると、気が遠くなりそうだ。われわれは人間が究明した科学の世界に驚嘆するが、それも「わからないものの全体」から比べれば、塵芥のようなもの。ひとつのことを究明するたび、わからないことがとてつもなく膨れあがるという。

 つまり、人間が「わかったつもり」になっていることなど、微生物の糞くらいのものでしかない。いや、微生物の糞に失礼かも。

 

 建築家・隈研吾氏は、「花の美しさに比べたら自分が創っているものなど、とるにたらないものだ」というようなことを述べていたが、実に謙虚な慧眼だ。だからこそ、あれほどの仕事ができるのだろう。

 美しい花を見るたびに自戒する。

 「いい気になるな。自分が何かに勝っているなど露ほども思うな」

 自分の評価は他人がする。いや、サムシング・グレートがする。

(120206 第316回 写真は新宿御苑のツバキ)

 

 

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