多樂スパイス
HOME > Chinoma > ブログ【多樂スパイス】 > 壮絶な覚悟とノホホ〜ン

ADVERTISING

紺碧の将

壮絶な覚悟とノホホ〜ン

2011.12.27

 NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」の放映が終わった。NHKの大河ドラマは、歴史認識が偏っていて、キャスティングは視聴者におもねってトンチンカン、舞台設定はお子様セットという具合で、とても見る気になれないが、「坂の上の雲」はすべてじっくり見た。旅順攻撃や日本海海戦での戦闘シーンなど、それなりによく撮れていると思う。なにより、司馬遼太郎が「映像化まかりならん」と遺言で封印していた作品の映像化であり、それだけでも価値がある。

 幕末・明治以降の近代に興味を抱いたのは10年ほど前。以来、ずっとその時代の歴史書を読み続けている。特に明治以降の近代国家建設過程が面白い。

 もちろん、幕末が面白いのは言うまでもない。ただし、その面白さは「破壊」の面白さであり、「創造」の面白さではない。当然のことながら前者はドラマ性があり、後者は地味だ。しかし、後者の主役たちこそ、近代日本のほんとうのリーダーだと私は思っている。

 

 結果がわかっているから安心して見ていられるが、実際に「あの場」で戦った人たちは、どのような覚悟を胸に秘めていたのだろう。例えば、バルチック艦隊との決戦において採用したT字戦法(敵前でのターン)は、まかりまちがえば味方の全滅を誘う危険な賭けだ。いわば、「完敗」というリスクをとって「完勝」に挑んだ。現場の責任者である東郷平八郎にとって、なまはんかな決断ではなかっただろう。

 横須賀にある記念艦「三笠」に乗ると、当時のことを偲ぶことができる。敵の砲弾が飛び交い、腕や腿や胴体や頭があちこちに散乱するなか、平然と指揮をとっていた東郷の立ち位置もわかる。艦内の作戦室もわかる。

 今、『Japanist』連載の原稿を書くため、伊藤博文について調べているが、日露戦争についていくつか考え方が変わってきた。

 ひとつは、そもそも日露戦争を防ぐ手立てはなかったのだろうかということ。ロシア側からの妥協を含んだ回答がわずかの差で日本に届かず、開戦に至ってしまった。結局、日本は戦争に勝ったものの、その後、財政は破綻寸前まで追い込まれた。さらに、84,000名に及ぶ尊い人命、44万人に及ぶ戦傷者など、人的犠牲は甚大であった。そして、見落としてならないのが、「日本海海戦で勝ちすぎた」ということだ。戦後の論功賞罰において、ただの一人も罰を受けることはなかった。例えば、アメリカであれば乃木はどう弁護しても軍事裁判ものだろう。しかし、精神論が好きな日本では「軍神」扱いされてしまう。総括を行わない悪癖はその後も変わりはない。一般にあまり知られていないが、太平洋戦争において、日本軍はただの一人も更迭していない。あれほど作戦ミスを重ねながら。一方、圧勝したはずのアメリカ軍は7人か8人を更迭している。

 結局、日本人のそういう癖は今に至るも変わっていないということだ。みんな「身内」なので、責任をとらせることができないのだ。日産もそのような理由でズルズルと坂を転がり落ちた。財政破綻に瀕している今の日本国家も、基本的には同じ轍を踏むと思っている。

 責任のある立場にいる者に責任をとらせない。これが日本の悪癖だ。

(111227 第306回 写真は横須賀の記念艦「三笠」)

ADVERTISING

Recommend

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ