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紺碧の将

歴史が醸す、新たな価値

2012.09.28

 東京駅復元工事の完成に合わせ、10月1日にオープンする「東京ステーションギャラリー」の内覧会に行ってきた。
 東京ステーションギャラリーは、1988年、駅を単なる通過点ではなく、文化の発信基地という機能ももたせる目的で丸の内駅舎内に誕生した(新ギャラリーは丸の内北口直結)。今回、オープンするギャラリーの壁には、一部、創建時の赤レンガが使われているのが特徴。ドーム型を中心にした展示スペースのフロアデザインも面白い。
 オープンのこけら落としは、『始発電車を待ちながら』という企画展。新進気鋭の9人の作家が、さまざまな表現方法で、“東京駅・鉄道” というテーマに取り組んでいる。
 現代アートの最大の武器は、ものごとを観察する視点の多様さ。なるほど、こういう見方があるのか、こういう表現方法がまだ開拓されていなかったのか、という驚きの連続であった。

 ところで、復元工事が終わった赤レンガ駅舎だが、こちらも見応えがある。長い時間の洗礼を受けた建物が醸す雰囲気は、そんじょそこらの最新建築物ではとうてい持ち得ないものだ。
 赤レンガ駅舎が誕生したのは、1914年。辰野金吾によって設計された。
 戦争時の空襲によって3階部分やドームが焼け落ち、60年以上もの長き間、本来の姿とは異なる姿をさらしていた。
 今回の改修工事では、「創建時の意匠や装飾、建材はできるだけ残し」「失われていた部分はできる限りオリジナルな形で復元する」というもの。併せて、建築史上で最大と言われる耐震工事も施された。その内容が『日経ビジネス』9月17日号に詳しく書かれているが、日本の土木・建築技術の粋には感嘆するばかりである。
 担当したのは、鹿島を中心とする企業連合。ゼネコンと聞くと、連鎖的に「賄賂」「汚職」「談合」「下請けイジメ」といったネガティブなイメージが想起されるかもしれないが、それは狭量というものだろう。施工前の赤レンガ駅舎を支えていた1万本の松杭を除きながら新たな杭を打ち込み、さらには免震装置を取り付けるなど、大胆で繊細な工事の詳細を知るほど、日本人の高い技術力を誇りに思えてくる。しかも、駅舎という機能を維持させたまま、工事中の震災にも耐えられる方法を採用しながら……。昔ながらの職人の技も随所に行かされているというのも嬉しい。
 復元がなった駅舎の前には大勢の人が集まり、カメラに収めていた。歴史あるものが復元され、それが人を呼ぶという好循環が全国各地で根付いてほしいと願ってやまない。
 なにしろ、いまだに歴史ある建物を壊しまくり、新しい建物を作ればいいと思っている輩がたくさんいるから。
(第370回 写真は、復元工事が終わった東京駅舎)

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