死ぬまでに読むべき300冊の本
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紺碧の将

本質がぎょうさん詰まった、木の話

file.009『『木のいのち木のこころ』(天・地・人)』西岡常一・小川三夫・塩野米松 新潮OH!文庫

 

 

 すべてに通じる普遍性が、語り言葉で凝縮されている珠玉の(あ、陳腐な言葉を使ってしまった!)3冊組は、高邁な哲学書に匹敵する世紀の名著(また!)である。

 最後の法隆寺・宮大工棟梁である西岡常一と彼の唯一の弟子である小川三夫、そして小川の弟子たちの話をまとめた3冊は、宮大工に限っての話ではない。教育論にも政治論にも経済論にも、そして人生論にもなりうる。

 下手な解説よりも、「天」篇から西岡常一の言葉をいくつか抜粋する。

 

――癖というのはなにも悪いもんやない、使い方なんです。人間と同じですわ。癖の強いやつほど命も強い。個性を見抜いて使ってやるほうが強いし長持ちするんですが、個性を大事にするより平均化してしまったほうが仕事はずっと早い。性格を見抜く力もいらん。そんな訓練もせんですむ。それなら昨日始めた大工でもいいわけです。

――生きてきただけの耐用年数に木を生かして使うというのは、自然に対する人間の当然の義務でっせ。そうしたら木の資源がなくなるということはありませんがな。

――明治以来ですな、経験を信じず、学問を偏重するようになったのは。しかし、1300年前に法隆寺を建てた飛鳥の工人の技術に私らは追いつけないんでっせ。

――檜を使って塔を造るときは、少なくとも300年後の姿を思い浮かべて造っていますのや。300年後には設計図通りの姿になるやろうと思って、考えて隅木を入れてますのや。

――一度、生まれたままの素直な気持ちにならんと、他人のいうことは理解できません。

――心の糧は五感を通して心の底に映る万象を正しゅう判断して蓄えること。これが心に飯を食わすということですな。この心に糧を与える手助けをするのが教育というもんでっしゃろ。

――先祖から何代にもわたって引き継ぎ、残してこられたもんが、私のところで花咲かせてもろうたのかも知れませんな。うしろを振り返りましたら長い糸に目がまわるほど、ぎょうさんの人がつながっていますものな。その端っこに私がおりますのやろな。そのためにもちゃんとした物を残さなあきませんで。時代に生かさせてもらっているんですから、自分のできる精一杯のことをするのが務めですわ。

 

 もっともっと抜粋したい箇所がある。真理が山ほど詰まっている。それでいて、語り言葉であるため、大切な意味がスーッと心のなかに入ってくる。本質とはそういうもんでっしゃろ。

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