死ぬまでに読むべき300冊の本
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紺碧の将

世界に通用する12人の日本人

file.001『世界に誇れる日本人』渡部昇一著・PHP文庫

世界に通じる12人の日本人

 

 日本の歴史には凄い人物がゴロゴロしている。

 この本は、タイトルにもあるように、日本の偉人を世界のものさしで書いた本である。日本史のなかから自分の好きな人物をセレクトし、一冊の本にまとめたものはいくつもあるが、そういう本のなかで、私はこの本を第一に推す。なんといっても人選に納得できる。

 例えば、大久保利通と岸信介。二人ともその大きな功績のわりに、不当な評価をくだされている。大久保は西郷隆盛を死に追いやった悪者として見られがちだ。人望がなかったとも言われるが、同時代を生きた偉人たちから最も評価されていたのは大久保だ。西郷の弟の従道でさえ、西南戦争のおりには大久保についた。大久保の不人気は、後世の人たちによって恣意的になされたと思える(西郷を称揚する反動として)。

 大久保の冷静なリアリズムがなかったら、まず明治の躍進はなかったと考えていいだろう。国内は四分五裂。海外からは列強の脅威が迫っていた。日本の歴史上、最大の危機を乗り切れたのは、一にも二にも大久保の辣腕があってこそだ。東洋のルソーと言われた中江兆民は、世界の大政治家とはフランスのリセリュー、コルベール、チェール、イギリスのピット、ロバートピール、グラッドストーン、ドイツのビスマルク、イタリアのカヴール、支那の諸葛亮、曾国藩と並んで、徳川家康と大久保利通をあげている。

 渡部はこう書いている。

 ――事をなす志を立てる人がいたら、政治家としては大久保に学ぶべきではないかと思う。

 岸信介は大久保よりさらに悪いイメージが定着している。いまだに60年安保闘争に参加したことを武勲のように語る人が少なくないが、迷妄はなはだしいと言わざるをえない。米軍は日本の国土を使えるが日本防衛の義務を負わないと片務性の強かった日米安保条約を改正し、アメリカに日本の防衛義務を負わせたのは、岸である。交渉のテーブルに就くことさえ拒否していたアメリカ側を説き伏せた交渉力は、彼の胆力であろう。A級戦犯容疑として巣鴨プリズンに収容されていたとき、平静さを失う他の容疑者とは異なり、岸はひとり泰然と詩経を読んでいたというが、その肝っ玉こそ岸の最大の武器だった。それによって、日本は安全保障上の大きな恩恵を受けることになる。そういう人物をきちんと選ぶ渡部は、たしかな歴史観をもっているといえる。

 この本で取り上げられた人物は、聖徳太子、紫式部、西行、源頼朝、織田信長、徳川家康、松尾芭蕉、大久保利通、伊藤博文、松下幸之助、野間清治、岸信介の12人である。

 ちなみに、誰に頼まれたわけでもないが私が選んだ12人は、西行、源頼朝、千利休、織田信長、徳川家康、山岡鉄舟、大久保利通、伊藤博文、岡倉天心、渋沢栄一、岸信介、松下幸之助である。渡部と重なるのは12人中8人。けっこう歴史観が近い(だからなに?)。

 ところで、この本には本地垂迹説のことが書かれている。古来、日本人が神道と仏教を両立させる方法として取り入れた考え方だ。いいものは形を変え、まったくちがう場所にも現れるというもので、宗教においてこれほど柔軟な考え方はないだろう。どの宗教もいいことを教えているが、他の宗教がからんでくると話がややこしくなり、争いになる。世の中に宗教対立がなくならないのはなんとも皮肉な話だが、世界中の宗教家が本地垂迹の思想を学ぶことができたら、世界の様相はずいぶん変わるのにと思う。争うことが本能に組み込まれている生き物として、それはありえないのかもしれないが、無邪気にもそんな願いを抱いてしまう。

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