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美しいものを生み出すためには醜い時間を経なければならなかった

多田富雄

 世界的な免疫学者、多田富雄の言葉だ。生命のしくみに美を発見した多田は、突如襲われた脳梗塞で、それまでのすべてを奪われた。しかし彼は不屈の人だった。言葉も体の自由も奪われ奈落の底へ突き落とされてもなお、必死にリハビリに励み這い上がった。不自由な体で闘病記やエッセイ、新作の能の脚本を精力的に執筆したという。

 

 善悪、楽苦、長所と短所。

 光と闇と、美と醜と。

 相対するものは常に一対であることを、すでに何度も書いてきた。 

 しかし、多田氏の著書に出会って、まだまだ勉強不足だったことを思い知った。

 

 医学生だった彼が、初めてお産に立ち会ったときのことである。

 生まれてきた赤ん坊はへその緒が巻きついていたこともあって、全身は紫色。しわくちゃの顔は老人のようで、かわいいどころか醜い肉の塊とさえ思った。

 そもそも、出産そのものが美しさとは無縁のように見えた。

 ところがどうだろう、数時間後に母親の傍らで気持ちよさそうに眠る赤ん坊の美しいことといったら。

 つややかですべすべの肌は赤みをさし、美しい「みどり児」に変身していたという。

 おっぱいを飲む赤ん坊と母親の姿は神々しいとさえ思った。

 

 そのときの感動を表した言葉がこれだ。

「美しいものは醜いものと隣り合わせにあった。美しいものを生み出すためには醜い時間を経なければならなかった。そして、美しいものは醜いものを包含していたのだ」

 

 赤ん坊は成長し、美しい青年期を迎え、やがて老境に入る。

 老人のような顔で生まれた赤ん坊は、やがて本物の老人になっていくのだ。

 生命には美と醜の連鎖があることを、このことが教えてくれた。

 

 苦しみや哀しみ、ドロドロとした感情や後悔など、醜いとしかいいようのない時間はもしかすると、美しく羽ばたくために必要不可欠な時間なのかもしれない。

(180228 第342回)

 

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