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Interview Blog Vol.40

日本にはまだまだダイヤの原石が掘り起こされずに埋まっています。それを私は発掘したい。

銀座一穂堂ギャラリーオーナー青野惠子さん

2018.04.01

「銀座一穂堂ギャラリー」のオーナー青野惠子さん。美しい日本の文化を後世に伝え残し発展させていきたいと、有望な若手アーティストを発掘し、国内外へ送り出したいと考えています。

美を見極める才能に気づく

ギャラリーをオープンしようと思ったきっかけはなんですか。

 夫の仕事についてアメリカに渡った時、海外の人に対して、日本の事をあまりにも知らない自分が恥ずかしかったのです。それに、日本人たちが集まると、たいてい折り紙ばかりでしょう? 日本のことを紹介するのであれば、もっと上質な日本文化を伝えたいと思ったのです。

 世界に出て行った人は、一人ひとりが自国の大使です。ですから、私は、帰国したら日本文化をもっと学び、日本文化に関わる仕事をしよう、日本人の文化度を 1センチでも上げる仕事をしようと考えて、日本美術工芸専門のギャラリーを開きました。

なぜ、日本文化に関わることがギャラリーを開くことに?

 私は幼い頃からさまざまなお稽古ごとを習いました。4才から日本舞踊を習い、着物や和楽器など伝統工芸に触れました。中学、高校生になると、染物、お針、木彫、陶芸、お茶、お花などの花嫁修業をしました。時間がたっぷりありましたから、どれもこれも一生懸命に習いました。そうやって、美しいモノや人、事に触れながら育っていったのです。でも、素人のお稽古ごとでは満足出来なくて、いつしか職人技を尊敬するようになり、大学を卒業する頃は、自分で作るより専門の職人さんが作るものを買う側になりました。そういう経緯があって、作り手とお付き合いが始まり、彼らのモノを扱うギャラリーを開くことになったのです。

志を掲げて

ギャラリーの名前「一穂堂」というのは、どういう意味があるのですか。

 笑われるかもしれませんが、大きな意味があります。

 一は始まり、世界一を目指す。

 穂は瑞穂の国、日本を象徴する、多くの実を結ぶ。

 堂は人が集まる所、立派を表す。

 

   稲穂のロゴマークは、伊勢神宮の朝と夕のお祀りごとと掛け合わせました。日本が大好きで、この名前を発するたびに日本文化を守ろうと思います。

多くの老舗ギャラリーがひしめく銀座で、新しくギャラリーをオープンすることに不安はありませんでしたか。

 世間知らずで何もわかりませんでしたから、不安という言葉さえ考えた事がありません。ギャラリーをオープンしたのはバブル崩壊後の1996年3月、その前年1995年1月に阪神大震災が、3月には地下鉄サリン事件と、日本中が元気をなくし疲弊していました。

 オープンを決心したのは「日本人を美しいモノで、文化で元気にしたい」と思ったからです。今考えても無謀ですが、「美しいモノには力がある」と信じて疑いませんでした。

 最初は新高輪プリンスホテルの一隅に「ざくろ坂ギャラリー一穂堂」をオープンしました。その時、いつか銀座に、いつかニューヨークに、パリにロンドンに、と思いました。そんな世間知らずの無謀なギャラリー経営はさんざんでしたが、5年経った頃、銀座に店舗を構えることができました。経営の難しさは銀座に移っても変わりませんでしたが、それを助けてくれたのはやはり美しいモノたち。そして、それを作るアーティストや職人たち、作品を喜んで下さるお客様方でした。感謝でいっぱいです。美しいモノを扱う仕事で良かったとつくづく思います。

 だから今も怖いものなどありません。不安もありません。日本中を元気にしたいと思ってはじめたことですから、まだまだこれからです。

たくさんいるギャラリストのなかでも、特に青野さんは新しい才能の発掘に情熱を傾けているという印象があります。

 それこそがこの仕事の醍醐味です。評価の定まった作家を扱う方が経営的には楽だと思いますが、それではギャラリストとしての面白味がないでしょう? 自分の審美眼を頼りに発掘する。そのために、たくさんの情報を仕入れ、日本国中どこへでも行って作家に会って話をし、作品を制作するところを見る。銀座でじっとしていても、新しい才能と出会う機会は増えません。この仕事はフットワークも大切です。そうやって発掘した若い作家がさらに能力を開花させる。その触媒になるのが真のギャラリストだと思っています。娘が日本に帰国する機会を利用して、車で全国各地の作家を訪ねることが多いのですが、お正月や お盆休みの10日間ほどで日本縦断するほど走ります。

それはすごいですね。反対に、作品を一穂堂に持ち込んでくる作家も多いのではないしょうか。

 そうですね。多いときは、1週間にメールや郵送を含めて20人 のアーティストが作品を見せに来ることもあります。でも、ほんとうに自分の心が動かない限り、お断りしています。作品は悪くありませんが、たまたまうちのギャラリーに合わないだけのことですから、これからも頑張ってくださいと励ますのも忘れませんよ(笑)。

青野さんの美的感覚は、一般の人のそれとは違うような気がします。

 私は深い精神性が感じられるものや普遍性があるものに美を感じるのです。一般の人にわかりやすい、ミーハーなものが溢れかえる世の中では、そういう美は埋もれてしまいます。だからあまり売れないのです。

 今は、売るための戦略に基づいたモノが売れるんですよ。でも、それでは本当に美しいものを作るアーティストたちがかわいそうです。そういうモノが売れず、安っぽいモノがどんどん売れるのは、本当に悲しくてやりきれません。見る目を育てて来なかった日本の社会の問題でしょうね。

今は本物を選ぶ人とそうでない人の二極化が激しいと思います。そんな中で、ギャラリーを経営するのは大変ではありませんか。

 そうですね。私たちギャラリストは、売れるか売れないかではなく、本当に美しい作品かどうかで選ぶのが本分だと思っています。だから、作る人、選び売る人、買う人、この三者が喜ぶモノを扱いたいのです。現在は、数の原理で経済最優先ですが、売れるモノが良いモノでしょうか。売れたら何でも良いのでしょうか。人間や地球、すべての生物たちにとって悪いモノを作って売ることがいいことでしょうか。子供から大人まで夢中にさせているスマホのゲームは、その最たるモノではないですか。

おっしゃるとおりですね。電車に乗れば、右も左もスマホ片手にうつむいている人がたくさんいます。事故が多発しているにもかかわらず、いまだ歩きスマホやスマホのよそ見運転が後をたちません。

 そういう世の中だからこそ、美術品や工芸は大切だと思うのです。食べるものでも着るものでもなく、それがなくても人は生きていくことができます。けれど、人がそれを見て、触れて、使って、その美しさに感動し、涙が出るほどの心の栄養剤になるモノも必要だと思うのです。そういうモノこそ、豊かなモノではないでしょうか。

 特に日本人の作ったモノは世界でも別格です。四季があり、美しい自然に恵まれて育まれた感性があり、八百万の神を信じる日本人にしか作れないモノがあります。神様が創った人間、その人間が作った魂の入ったモノ、それを扱えるこの仕事はなんと尊いのかと日々感謝しています。

ニューヨーク進出と、さらなる飛躍

現在は銀座とニューヨークに拠点を置かれていますね。

 ニューヨークにギャラリーをオープンしたのは 2008年3月。ちょうど今年で10周年です。その頃、日本では美術工芸品が売れなくてアーティストのモチベーションが下がっていました。彼らがイキイキと制作するには、海外で、特にニューヨークにギャラリーをオープンしたらいいのではないかと思い立ったのです。娘も「やりたい」と言ってくれたこともあって決心しましたが、半年後、リーマンショックに会いました。そんな中でも美しいモノを紹介するうち、徐々にアメリカの有名美術館のキュレーターやコレクターから信頼を得るようになっていきました。娘はデイレクターとしてよくやっています。

 海外では日本人の作る工芸品が評価されますから、日本の作り手が生きて行くにはこの道しかないように思えます。

リーマンショックや東北大震災、ハリケーンサンデイと、厳しい経営は続きましたが、アメリカンドリームを信じて、娘と二人で 「志を聳え立たせよう」とがんばってきました。

今後の抱負を教えてください。

 何が大切で、何を次の世に残すことができるのか、と日々考えギャラリーに立っています。お客様に語り部のように作品や作り手のことを話し、一つひとつ売っています。売れれば作り手の力になりますからね。

 私が選んだモノは私の片想いですから力が入ります。それだけに、作品に無礼なことはしません。自分で選んだ仕事です。365日、休むことなく働いても経営は難しいです。でも、難しいから楽しいのでしょうし、道半ばだから働けるのでしょう。

 吹けば飛ぶようなギャラリーです。もっともっと力をつけて、私が「これ買っておかれたらいいですよ」と言うだけで売れるようになれば、もっともっと作り手たちの力になれるのにと思います。そのためにも、自分自身をさらに高めていきたいと思います。

(写真上:銀座一穂堂、中段:20周年パーティ(パレスホテル東京)、下:NY一穂堂)

 

銀座一穂堂ギャラリー

http://www.planup.co.jp/ginza_j.html

ニューヨークギャラリー

http://www.ippodogallery.com

 

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