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紺碧の将
Interview Blog Vol.39

書店の完成形を目指しながら、“町の本屋さん”が増える未来に挑戦したい。

那須ブックセンター 店長谷邦弘さん

2018.03.21

 

2017年10月にオープンした那須ブックセンターは、「地域に本屋は必要」と考えるオーナーの意向でつくった書店です。書店のない地域が増える近年、この那須ブックセンターが“町の本屋さん”のモデルケースになるよう、関係者が一丸となり運営に励んでいます。オーナー直々のオファーにより、店長を引き受けた谷さんは書店業界ではキャリアと実績をもつ大ベテランです。

本の世界に魅了されて

書店関係の仕事に就こうと思ったきっかけをお聞かせください。

 学生時代はテニスに打ち込んでいましたが、高校のテニス部が廃部になり、急に熱中できるものがなくなってしまったのです。夏休みもやることがなくて……。ふらりと入った書店で『新潮文庫100冊フェア』をやっていたんです。それでこのフェアの100冊、すべて読み切ることを目標にしました。それまで読書なんてしなかったので、本当に急な思いつきで(笑)。

100冊は多いですね。目標は達成できたのですか。

 読んだのは76冊でしたが、すっかり本の世界に魅了されました。こんなに素晴らしい世界があるのに、なぜ今まで知らなかったんだって思いましたよ。

 自分のように本の魅力を知らない人がいるはず、だからそれを伝える仕事に就きたい。それで本屋になりたいと思いました。

それが谷さんと本との出会いなんですね。高校生というと進路を考える時期ですね。

 出版業界のことは何もわかりません。だからまず、本の流通を勉強するために出版物の取次で大手の会社に就職をしました。大学に進学したつもりで4年間だけ社会勉強をする予定が、会社も仕事も気に入ってしまって(笑)。ずっとこの仕事を続けようと思った時、実家から「家業を手伝えば将来、本屋の出資をする」と言われたんです。結局5年で退職して家業を手伝うことにしました。

では実家のお仕事をして、その後ご自身の書店を出店することができたわけですか。

 将来オープンするであろう『ブックス谷』のことを考えながらワクワクしていましたよ(笑)。でもそんなに世の中甘くない。オイルショックの影響で会社が倒産しちゃったんです。

 残務処理をしながら途方にくれましたが、この機会に原点に戻ろうと考えました。もう一度、本屋になるために一から頑張ろうと。その後、知人の紹介で栃木県小山市の書店に就職しました。21年間、本屋としての基礎はすべてこの書店に教わりましたよ。

那須ブックセンターに出会うまで

その書店の次に埼玉県秩父市の書店で店長をされていますね。そちらで働くことになったのはどういった経緯があったのですか。

 その書店には何度か行く機会があって、あまりお客様が入っていなかったんです。そのたびに「ここはもっと良くなるのにもったいないなぁ……。」と思っていたんです。その書店も困っていて、助けてくれないかと相談されて。前の書店では本部の仕事をしていたので、できれば現場の仕事をしたかったんですよね。すぐに「やります」って言いました。

どこに問題点があったのでしょうか。どのように改善していきましたか。

 百貨店の隣で駐車場も共用、人は集まっているんです。お客様が来てくれないのは、やるべきことをやっていなかっただけなんですよ。事実、私が店長になってから一年で黒字になりました。

 最初はスタッフの教育。お店の運営はまず人からが基本です。全員が同じ問題意識を持つことができて初めて「じゃあみんなで考えよう」という話ができます。これをやるとお店の雰囲気がすごく良くなるんですよ。

 あとはあるべき商品が並んでいなかった。地域の特徴や客層を考えれば、その書店にとって核になる商品がわかるのですが、これがことごとくなかったんです。売れるはずの商品を置いてないんですから、売上だって当然伸びません。

 特別なことをやるわけではなく、こういった基礎的なことに手を入れるだけで売上が伸びるお店だと思っていたのでもったいないと感じていたんですよね。

しっかりと考えて仕入れをして、意思をもった品揃えにする必要があるわけですね。

 例えば将棋の本を10冊置くなら初心者用が6冊、中級者用が3冊、上級者用が1冊のように黄金比率があるんです。あとは商品の流れ、将棋の本の横に囲碁の本を置きましょうとかね。そういう基本を踏まえて、本を仕入れて並べていくんです。

 ただし、例えば“参考書に強い”とか、その店舗の特徴ともいうべきラインナップならその基本から外れていても面白いんですけどね。

 お客様が欲しい本が“たまたま置いてある”ではダメなのです。欲しい本がいつも置いてある書店と思われなければ。

ここからの谷さんの経歴が凄いですね。大手チェーンで勤められたあと、郵便配達員を経て、また別の大手チェーンに勤められています。一度書店業界から離れて、また戻っているんですね。

 大手の社長さんから声をかけられて、即採用で翌日から働きました。ところがそこの業務がハードで……。本の仕事ならハードでも苦になりませんが、レンタルやゲームなどもあって、これが自分にとってストレスだったんでしょうね。過労で倒れてしまい、これは年齢的にも続けられないなと思いました。

 精神的にかなり落ち込んで……。もうこの業界は無理だと思い、別の仕事を探していたら、ハローワークの相談員に、「あなたは相談員になりなさい」って言われて(笑)。それで郵便配達の仕事をしながら、キャリアコンサルタントの資格をとるために勉強しました。

 いよいよ試験というタイミングで、今度は別の大手の社長さんからお誘いを受けました。もうすっかり相談員になるつもりだったので一度は断ったのですが、「本以外の仕事はやりたくない、本売り場で現場だけをやらせて欲しい」という私の意を汲んでくださったのでお受けすることにしました。

 そこでは店舗ごとに本売り場のテコ入れをして、どの店舗の売上も上げることができました。しかし大きい会社ですから、本の現場もシステム化・マニュアル化が進んできまして……。そうなると現場の意思は必要なくなりますから。そんな時、この那須ブックセンターのお話をいただけたんです。

ポイント1点を積み重ねれば、やがて100点以上になる

書店以外の仕事をしようと思っても業界の人が谷さんを放っておかないんですね。その人脈はどのようにしてできたのでしょうか。  

 最初の書店に勤めたころからずっとやっている出版社めぐりですね。

 出版社の営業が書店に来るのはよくあることですが、売り込みに対して不信感を抱くようになって……。逆にこちらから出版社へ出向いてみようと思ったんです。東京を中心に1日かけて出版社をまわるんです。勉強になりましたし、書店の売り込みもできた。なおかつ、谷という人間を宣伝できたんですね。

 おかげで仕入れで苦労したことはほとんどありません。人脈の輪もどんどん広がって行きました。この出版社めぐりは今でも仕事としても趣味としても続けています。

これまでの歩みを聞いていますと、その行動力に驚かされます。

 行動を起こすことに意味があって、結果がどうであれ、それは無駄にはならないと考えています。「ポイント1点になった」という言い方をよくするんですね。例えば、出版社に行ったのに誰にも会えなかった。でも行ったことが1点になったとします。たかが1点かもしれないけど、積み重ねればやがて100点以上になるんです。その時はじめて、その1点が無駄ではなかったとわかるんですね。行動した事実とその積み重ねが大切なんです。待っていては何も起きないんです。動いた分だけ何かが起こるんですよ。

どういう書店が理想だと考えていますか。また、これからの目標をお聞かせください。

 入店された方が笑顔で帰っていく書店でありたいです。商品・接客・お店の雰囲気、それぞれの要素をひとつひとつを追求して完成形を目指していきたいですね。100%は難しいけど、可能な限り近づけたいです。

 那須ブックセンターが成功することによってモデルケースとなり、“町の本屋さん”がひとつ、またひとつと増えていく未来を目指しています。そのために谷という人間が必要とされる限り、尽力していきたいと思っていますよ。

Information

【那須ブックセンター】

〒325-0302 栃木県那須郡那須町高久丙2-39

TEL.0287-78-2000

フェイスブック https://www.facebook.com/nasubookcenter/

 

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