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紺碧の将
Interview Blog Vol.32

長年培ってきた嗅覚で、美しいものを生み出してゆく

株式会社アンビアンス 代表新井幸江さん

2018.01.11

香りのプロフェッショナルとして、長年フレグランスの開発やプロデュースにかかわり、活躍されている新井幸江さん。かすかな香りまで嗅ぎ分ける嗅覚は、まさに職人的。

現在は自然豊かな伊豆の修善寺で半自給自足の生活を送り、よりいっそう感覚を研ぎ澄まされています。

香りを求め世界へ羽ばたく

香りのお仕事にかかわられてどれくらいになりますか。

 30年以上になります。外資系の香料会社に11年勤めたあと、独立して現在の会社「アンビエンス」を立ち上げました。

香りの道に進もうと思われたのはなぜですか?

 きっかけは、フレグランス教室に通っていたことです。香りの仕事をする前はホテルに勤務していました。直接お客様とかかわる現場を希望していたのですが、事情あってデスクワークをしていたのです。ちょうど仕事に違和感を感じはじめていたころ、フレグランス教室で原料を卸していた香料メーカーのジボダン社が人材を募集していることを知って、応募しました。

 最初は調香師を希望していたのですよ。でも、化学を専門的に学んだ人でなければダメだということで、あきらめていたところ、マーケティングをやってみないかと誘われたのです。

 マーケティングならホテルの専門学校で学んでいましたから、大丈夫だと思ってお受けしました。

ジボダンというと、世界最大の香料メーカーですね。

 はい。本社はスイスにありますが、御殿場に工場と研究所、マーケティング部門ができて人材を募集していたようです。専門学校時代に英語とフランス語をマスターしていて、その両方のタイプライターが打てるということと、海外経験があったことが決め手だったようですね。香料に関する翻訳や香りのライブラリィのようなものを作成していました。本社に行き来することも多く、調香師の学校にも通わせていただきました。

調香師の学校では、どういうことを学ぶのですか。

 主に、香りと記憶を結びつけるトレーニングです。香りと記憶はセットになっていますから、何かの香りを嗅いである情景を思い出すということを一度は経験したことがあると思います。そういうことを意識的に行うのです。学校にはいろいろな国の人が学びに来ていて、香りも国の違いで感じ方はぜんぜん違うことを知りました。

調香師となると、何種類もの香りを覚える必要がありますよね。だいたい、何種類くらい覚えるのですか。

 300種類くらいでしょうか。私は調香師ではありませんが、同様のスキルは必要でしたから必死で覚えました。

300種類ですか。それはすごいですね。それだけの数の香りがさまざまな記憶と結びついているということだけでも驚きです。日本人と西洋人では、香りへの意識は違うのでしょうか。

 違いますね。西洋人が自分の好きな香りを身にまとうのに対し、日本人の場合は、人がどう思うか、相手が好きか嫌いかという他者の気持ちに重きを置いて判断する傾向があります。どちらが良いか悪いかではなく、文化の違いからくる生活習慣の違いだと思いますよ。

自然の中で本来の自分を取り戻す

都会から修善寺に移られて、農園をしながら半自給自足の生活を送られています。それによって何か変化はありましたか。

 大いにありました。最初は何もない、草が生い茂った林のような場所を主人と二人、2年がかりで畑にしました。修善寺に移る数年前から体調を崩していたのですが、五感を頼りに無心になって土に触れていたことで体調が良くなっていったのです。

 ただ夢中で自然と向き合っていたことがよかったのでしょうね。

 自然の中で生活をしていると、待つことがあたり前になります。人間の力ではどうすることもできないことが多いですから。それが自然本来のリズムなのだということに気づきました。

人間も生き物である以上、季節を意識しながら自然体で生きることが本来のありようなのでしょうね。

 最終的に人間が拠り所とするのは自然だと思います。生きる環境は人それぞれですが、私は土に触れることで五感をサボタージュさせない生き方を選びました。今はその生き方を選んでよかったと、つくづく思います。

自然に倣い、変化しつづける

現在、新井さんは「気和心」というショッピングサイトの運営と、新たな事業の立ち上げにもかかわっていらっしゃいますね。

 何かを作りたい、生み出したいとずっと思ってきたことが、今ようやく形になってきたという感じでしょうか。五感の中の嗅覚という感覚のクリエーションを30年以上続けてきたことで、視覚でのクリエーション(デザインや商品開発)へ活動範囲を広げることができました。

「気和心」を立ち上げたのも、香りづくりのプロとして、これまで日本の個性と世界のトレンドを意識して新しい香りを生み出してきたスキルを生かし、日本の手仕事に裏付けられた美術工芸品を、世界の生活者の暮らしにフィットできる品として、嗅覚と合わせて美しいものを生み出したいと思ったのです。

 また、これとは違う形で、日本の美術作品を世界に発信する新たな事業にも参加しています。今はその準備に追われていますが、どういう展開になるか今から楽しみです。まだまだしてみたいことはたくさんありますが、それも肩肘張らずに自然体でやっていきたいですね。

(写真・上からミラノにて、ジュネーヴにて初トレーニング、恩師であるマーテル氏とともに)

 

株式会社アンビアンス

http://www.ambiance.jp

 

 

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