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No.32

プリミティブな呼吸
ricchan@DANCE DANCE DANCE

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 はじめて妻木さんのダンスを拝見したのは、オープンしたばかりの小さなスタジオ。妻木さんの踊る姿に、木が閃いた。その後、初対面でこの特集の打合せをしたとき、おもむろに「木のように立っている写真を撮らせてください」とお願いしたのだった。
 何もないところに妻木さんがただすっと立っていて、それを自分がずっと離れたところから眺めている風景が頭に浮かんでいた。そのアイディアを聞いた妻木さんは「どこでもかまいません」と快く応じてくれ、表紙の写真が撮れたのである。
 妻木律子さんは宇都宮市生まれ。モダンダンサーとして二十年以上のキャリアを持つ。在外研修員としてニューヨークのマース・カニンガムスタジオで学び、国内では現代舞踊家協会に所属し、訪米以前からさまざまな舞台で活躍した。
 帰国後は、コレオグラファ(振付家)としても、「永遠の2分の1」などいくつかの作品を発表、ドイツやカナダ、アメリカをはじめ、海外招聘公演も多い。
 ところで、ダンスといってもカテゴリーがさまざまで理解しがたいと思われがちだが、歴史的には体系化されたダンスのもっとも古いものはクラシックバレエである。
 クラシックバレエにも、時代や地域でさまざまな様式があるが、様式にもとらわれず、もっと自由に踊りたいという人たちによって生み出されたモダンバレエは創造的に進化し、やがてよりラディカルに、モダンダンス、ポストモダンダンスへと変化していった(コンテンポラリーダンスともいう)。
 そしてこれと同列にあるのが日本人、土方巽を祖とする「舞踏」である。
 「BUTO」は今や世界共通語だが、暗黒舞踏とも呼ばれ、アバンギャルド、アンダーグラウンドという言葉がついてまわる。この印象が未だに強くて、ダンスといえば前衛という連想をする人は多いのである。
 しかしダンスは何よりも、社会や知性、思想の変化を如実に映し出して吸収する。それは人間が道具を持たずとも、身体だけで表現できる数少ない芸術の一つだからだろう。
 人間が二足歩行を始め、社会的動物として生まれ変わってきた言葉のない時代は、身振り、手振り、全身の表現を使うことしか、感情や情報を伝える方法はなかった。
 言葉や道具を手に入れても、人間がダンスを忘れることはなかった。ダンスによって伝えられるのは、喜びや悲しみ、愛情、怒り、ときには祈りや念仏さえも。
 呼吸と同じく、人間にとってもっとも根源的な身体活動、それがダンスである。
 妻木律子さんの身体が内包するエネルギーは、ダンスというよりプリミティブな呼吸を思い起こさせてくれたように思う。
 インタビューの最後、妻木さんは「わたしは木が好きで、いつも木になりたいと思っているの。木は空気と光と水だけで、空と大地に向かって伸びてゆけるから」と語ったのが印象的だった。自分の第一印象そのままだったということと、空気と光と水だけで、という言葉が、自分が生きていける分だけのものがあればいいという、妻木さんの生き方に重なったからだろう。
 ダンスそのものを誌面で紹介するのは不可能だが、妻木さんの人となりを知ることで、ダンスへの興味をもっていただけたら嬉しい。

●企画・構成・取材・文・制作/五十嵐 幸子・都竹 富美枝
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.32 【フーガ 2004年 9月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り

●定価/500円(税込)
●月刊
●2004年8月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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