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No.27

カクテルは
人生と恋の数ほどございます。
バーテンダー 田島明

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「粋でいなせ」というのは、江戸っ子のほめ言葉。「粋」は広辞苑によると、「気持ちや身なりのさっぱりあか抜けしていて、しかも色気をもっていること」とある。これに「いさみ肌」が加わると「いなせ」になるらしい。
 この、いかにも「粋だねえ」という御仁に、久しぶりにめぐりあった。宇都宮市泉町で「As time goes by」というオーセンティック・バーを経営する田島明さんだ(※オーセンティック・バーとは、本格的なバーという意味)。
 ところで粋といえば江戸っ子、江戸っ子といえば「寿司食いねえ」の寿司。カウンターの向こうでカクテルに取り組む田島さんから、寿司職人を連想した人がいた。たしかに客の顔色からその日の体調や気分、はては懐具合まで推察し、お好みにあった食材と気の利いた会話で満足させる点で、この二つの職業は同じである。だったら常連ではなくて、ご贔屓と呼んだ方がいいかもしれない。ご贔屓の中には、カクテルではなく、田島さんを飲みに来る人もいるかもしれない。
 田島さんのどこが粋かと言うと、まず立ち姿が美しい。重力に従って一本の筋が頭のてっぺんから地面に向けて落ちていくのが見えるような、潔い立ち姿だ。
 個人的な見解だが、立ち姿にはその人の生き方や考え方が表れると思う。着飾ったものを削ぎ落としたとき残るのは、体の中心にどんな筋を持っていたかということだけだから。 田島さんは初対面で、シンプルな生き方をしている人なんだなあと、こちらが妙に安堵してしまう立ち姿をしていた。爽やかなのに威風堂々、それでいて押しつけがましさはまるでない。カウンターの中でカクテルを作る田島さんも同様、気迫を発散させているはずだがこれを微塵も感じさせない。そこにそこはかとない色気を感じる。
 田島さんは世界大会に出場したこともある腕利きのバーテンダーだが、変わり者という人もいる。そのココロは、「もっといくらでも儲けられるのに、欲がない」からだそうだ。たしかに店には看板もない。カクテル一杯についた値段は、安くはないが高くもない。ひとりで切り盛りしているので、一晩であしらえる客の数は限りがあるだろう。金儲けを考えようなんて様子はさらさらない。ないばかりか昼間は、家業である氷屋の仕事をしているのだった。
 その淡々とした生き様に惹かれたファンは数多く、特に男性の中に熱心なファンが多いのも事実だ。どんなところに惹かれるのかというと「こだわり」に対する姿勢だという。
 「As time goes by」は、その名の示すとおり、映画「カサブランカ」へのオマージュや、田島さんのあらゆるこだわりが散りばめられた店だ。それらは普段、ひっそりと息をひそめていて、表面に出しゃばってくることはない。
 剥き出しの「こだわり」は、過ぎれば押しつけになる。田島さんという人はそのあたりの加減をよくわきまえていて、ちょうどいい塩梅でバランスをとっているのだろう。それが「さっぱりとあか抜けた」風情になって現れる。
 巷の田島さんの噂で「頑固」はまだいい方、中には「偏屈」呼ばわりする人もいる。でもよく聞くと「行ったことはないけど」と続いて呆れる。会ったことがない人の噂をするのは、それだけ気になる存在だということなのだろうか。
 「行ったことはないけれど」は、「行ってみたいけれど」が本音なのかもしれない。

●企画・構成・取材・文・制作/大海 淳宏
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.27 【フーガ 2004年 4月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2004年3月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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