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紺碧の将

超人気店を淡々と閉める

2018.06.14

 こんなことがあっていいのか?

 自分で事業を起こした人のほとんどは、そう思うはずだ。京都の名店〈オ・グルニエ・ドール〉が、かねて予告されていた通り、5月31日をもって閉店した。同店は西原金蔵氏が立ち上げた洋菓子店で、関西のパティスリーでは図抜けた人気を誇っていた。

 なぜ、今年の5月31日か? その日は、西原さんの65歳の誕生日なのである。彼は、始まる時から「65歳の誕生日まで続ける」と決め、それを広言していた。そして、みごと有言実行を果たした。

 これにともなって、西原さんを慕う有志が慰労パーティーを開いた。リーガロイヤルホテル京都に集まったのは、約140人。私も招待され、じつに心地いい、素敵な時間を共有してきた。

 なんと、このパーティー、地元の政治家や有力者はいっさい出席していない(関西エリアのテレビ局が収録していたが)。来賓祝辞は私だけ。その後、西原さんへの質問の時間があり、あとは和気あいあい。珍しく「参加してよかった」と思えるパーティーだった。

 これまで私は西原さんに3度取材している。最初は2003年、アラン・シャペルと8人の弟子たちの交流をテーマにした『魂の伝承』という本の取材で。2度目はその3年後、当時弊社で発行していた『fooga』の取材で。3度目は2011年、西原さんの料理哲学をまとめた『本物の真髄』の取材で。加えて、西原さんが〈アラン・シャペル神戸〉に在籍していた頃の上司にあたる小西忠禮氏の半生を描いた『扉を開けろ』にも西原さんのことを記述している。そして今回、『Japanist』次号のために4度目の取材をした。こうやって数えてみると、私はずいぶんと西原さんに惹きつけられてきたのだなと、あらめて感じる。

 西原さんは、これまでにお金の苦労をしたことがないと言う。経営学も学ばず、原価計算もおおざっぱなのに……。朝起きて、今日は嫌だなと思ったこともないと言う。修業らしい修業はしていないのに、とんでもない技術を習得している。いったい、どうやって? 次々と疑問が去来する。

 子供の頃からオーディオが好きで、今では店の2階、自宅、事務所に合計数千万円に及ぶオーディオ装置を持っている。7年前に町家を買った時、億単位の借金をしたが、それも完済している。

 洒落た和食のランチコースをいただいた後、京都駅まで送ってくれたが、車はなんとポルシェ・ボクスター。白いボディに赤い幌のオープン2シーター。カッコ良すぎる!

 とにかく、彼はすべてにおいて自然体である。いつも笑顔で、どんな人も惹きつけてしまう。気がいついたら、多くの仲間に恵まれ、人気店を閉じても、多くの選択肢をもっている。まさに人生の達人という以外ない。

 彼が次にやろうとしていることは?

 それを聞くと、世の中の、事業家やサラリーマン諸氏は地団駄踏むことになるだろう。

 

※悩めるニンゲンたちに、名ネコ・うーにゃん先生が禅の手ほどきをする「うーにゃん先生流マインドフルネス」、連載中。今回は「過去と未来と現在、その向き合い方」。

https://qiwacocoro.xsrv.jp/archives/category/%E9%80%A3%E8%BC%89/zengo

(180614 第819回 写真上は西原金蔵氏。下は閉店したオ・グルニエ・ドール。ちょっと前までの賑わいが嘘のようにひっそりとしている)

 

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